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正しい「不正請求」について

 
 もちろん、不正請求に正しいものなんてありません。

 ここでは、「不正請求」の「正しい意味」についてお知らせしようと思います。

 まず、基本的ことがらから

 医療機関は、その月の診療分をレセプトで、請求します。(こちらを参照

 社会保険は社保支払い基金へ、国保は国保連合会へ請求します。

 そこで、それぞれ審査のドクターが審査します。

 診療内容が、病名と余りにもかけ離れていると、減点することもあります。

    そこをパスしたレセプトは、社保ならそれぞれの保険者(会社など)へ
    国保なら市町村の役所へ、送られます。
    そこで、さらにチェックします。
    主に、保険番号などが誤っていないかどうか、などを点検します。
    最近は、レセプトの内容にまで踏み込んで、病名と薬、検査を機械的に
    比較して、少しでも合致してないと、再度、審査するように申し出ること
    が、多いのです。
    基金や連合会では、それらを受けて、減点することもあります。

 医療機関には、月初めに支払い基金や国保連合会から、過誤調整の通知
 届くことは珍しいことではありません。

 過誤調整とは、「これだけ減点しました」という通知です。

 通知された減点の内容の多くは、適応外とされる薬剤や、過剰とされる検査であ
 ったり、社保から国保へ移行など、保険が変更になったのにしたのに、患者さん
 が医療機関に届けなかったり、など、さまざまです、

 しかし、適応外とされる大部分は、「レセプトへの病名の記載漏れ」であること
 が、大変多いのです。医療機関側のミスですね。(こちらを参照

    「適応外」とは、例えば、糖尿病という病名で、気管支炎の薬を処方したときなどです。
    糖尿病だけで、気管支炎の薬を処方するわけがないのですが、レセプトに「気管支炎」
    という病名を記載忘れると、こうなります。

 過剰とされる検査も、医療側としては診断や経過観察上必要と判断して行った
 ものである場合が多いのです。

 このことは、審査員は、実際に患者を診てその診療が適当であるのかを判断して
 いるのではなく、レセプトだけで審査しているので、当然、診療側と審査側で、
 意見の食い違うことは、ままあることです。
 

 さて、以上のような予備知識を得て、以下の文章をお読み下さい。  

 2002年の国会で、こんな質疑応答がありました。

 まず、7月22日衆議院決算行政監査委員会第三分科会でのやりとりです。

 さる党のさる議員の「レセプト審査で過剰とされて減額された金額は?」
 という質問に、厚労省は
 「平成12年度では、社保国保あわせて900億円位だろう」と答えました

 この議員は、「そのうち患者の自己負担は200億円はあるだろうから、
 それらは『お医者さん』から患者さんに返さなくてはいけないのではないか」
 と、さらに質問しました。
 すると、坂口厚労省大臣は
 「常識的に考えれば、お返しするのが筋だと考えております」
 と、お答えになりました。

 さて、この厚労省大臣の言うことが正しいかどうか、一つの例をあげて、
 確かめてみましょう。(当院の例です)

 ある糖尿病の患者さんにインスリンを処方していました。
 糖尿病のために、自分でインスリンを朝夕注射をしている患者さんです。
 この患者さんは、1筒のインスリンを8日で使い切ります。
 それで、この方のインスリンは、5筒が一箱に入っています。
 たまたま、2001年10月は一箱出したのです。つまり40日分ですね。
 規則では(2002年4月からは違いますが)昨年10月は30日しか処方しては
 いけないことになってました。
 理由は、不明です。

 (今年の4月からは、一月以上処方しても良くなりました。

 一旦、審査は通ったのですが(40日処方なんて問題にするほうがおかしい)、
 さる保険者(ある会社)から、
 「インスリンは一ヶ月分しか認めないのでは」
 ということで、再審査を支払い基金にだされたのですね。

 基金の審査の先生は、規則はそうだからしょうがないか、ということで、
 インスリンを5筒から4筒に減点してきました。
 (今年の4月からは、一月以上処方しても良くなっているにもかかわらず)
 そして、その1筒分の910円を2002年6月診療分から差し引きました、
 という過誤通知が、8月の月初めにきました。

 私は、この患者さんにインスリン1筒分のお金を返すべきでしょうか??

 いったい、いくら?

 定期的に診療しているので、診療室で、以下のような会話がなされるのでしょう。

 あなたに、昨年の10月にインスリンを5筒処方しましたが、保険で1筒減額され
 ました。
 つきましては、その1筒分の自己負担分をお返しいたします。
  ちょっと、事務の○○さん、計算して。
  いくら?
  え? 定額払いなので、おんなじです?
  910円、まるまる差し引かれてるので、返すもなにもありません?

 え〜、みんな減額されちゃってます。ですから、返すお金はありません。

 ということになります。

 じゃ、一割負担の人だったら、どうしましょう?
 この場合は、820円を減額したという通知がきます。

 え〜 事務の○○さん、計算して。
 え? 90円?

 え〜、90円お返しします。
 ところで、あのインスリンは、どうしました?

 どうしましたって、先生、使っちゃったに決まってるでしょう。
 だから、翌月、余ってるからって、3筒しかいただかなかったじゃありませんか?
 90円、いりませんよ。

 第一、この減額に私は納得しているわけじゃないですので、この減額をどうやって、
 だれが、患者さんに通知するのでしょうか?
 保険者がやるのでしょうか?
 通信費のほうが高くつくかもしれませんよね。

 じゃ、別の例。
 高血圧症で通院中の患者さんが、たまたま腰痛を訴えましたので消炎鎮痛剤入りの
 外用薬(貼り薬)を処方しました。
 すると、8ヵ月後に、「適応外」ということで、減額されました。

 この場合も、患者さんに返すのでしょうか?

 私も納得いかないので再審査請求をしましたら、レセプトのコピーを添付されて
 きました。(それまでは、かたくなにコピーはできない、といってたのですが、
 ようやく、基金も、国保並にコピーしていただけるようになったみたいです)
 それをみて、私はびっくりしました。

 なんと、腰痛という病名が抜けているではありませんか。

 この場合も、患者さんに、

 昨年、8月に処方した貼り薬ね、あれ、私がうっかりして、レセプトに病名を
 ぬかしちゃったんです。保険点数を減額されちゃったんです。
 で、3割分の290円をお返しいたします。
 ところで、あの貼り薬、どうしました?

 どうしましたって、先生、使っちゃったに決まってるでしょう。
 だから、翌月、おかげさまで、治りましたって、言ったじゃないですか。

 ところが、8月27日衆議院国会(内閣衆質154第159号)で、
 さる党のさる議員は
 「7月22日にレセプトの不正・不当請求に関して質疑をした」との質問趣意書
 を提出して、質疑をいたしております。
     患者さんへの払いすぎ医療費返還に関する質問主意書(154回国会159号)

 この質問している議員は、不正請求と、過誤調整の意味を全く知らないで、
 見当違いの質問をしているのですが、

 なんと、答えるほうの厚労省も、どういうわけか、こういう勘違いを指摘
 しないばかりか、厚労省大臣に、「返すのが筋」と、答えさせております。

 不正請求は、詐欺です

 やってもいない診療をやったようにして、レセプト請求する、

 患者を診てないのに診察したようにしてレセプト請求する、

 看護士の数が基準を満たしていない病院なのに、満たしているようにして
 高い基準の入院料を請求する、

 このような行為を不正請求といいます。

 これらは、減額などの過誤調整ではなく、行政の監査を受けて、
 詐欺的行為をおかしたならば、それ相応の刑事罰やら、行政措置を
 受けなくてはなりません。

 もちろん、その場合、患者さんに自己負担があれば、返さなくてはならない
 のはあたりまえのことです。

 私は、この政治家と官僚の一連のやり取りを知って、愕然としました。

「何にも知らない人たちが、いろいろ論じ合って決めているのだ」

 どうですか?

 あなたの専門分野(医学に限りませんよ)の行政は、きちんと合理的になされて
 いますか??