おまけ

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ほーむ

 
レセプト病名は不正請求の始まり。

 レセプト病名ってご存知ですか?

 レセプト開示されたときに、自分の病名を見てびっくりして、「いつからこんな重病になったんだろうか」と落ち込む人と
あっ! インチキ見っけ!」と大喜びして支払い基金なんかに訴える人と
ふ〜む、これには何か深い仔細があってのことだろう」と思っていただける思慮深い人にわかれるかもしれません。

 あなたは、どっち?

 例をあげましょう。

 ×月×日、みぞおちが急に痛くなって私の診療所へ来たとしましょう。
 なんだか重症だとこまるなあ、なんて内心思いながら診察を始めます。診察風景は省略します。
 (急に上腹部が痛む。ふ〜む、胃潰瘍か十二指腸潰瘍だろうか? はたまた胆石だろうか? いや、まてよ、こういうので心筋梗塞っていうのもあるからなあ)
 こういう内心の考えを全て口に出すと患者さんはパニックになってしまうので、
 
「胃か心臓か胆嚢か、ちょっと調べて見ましょう」なんて言ってとりあえず心電図を検査してみると、何でもない、ということがわかる。(ああ、よかった)
 「じゃあ、おしっこを検査してみましょう」
 尿も異常なし、ということがわかる。(ふ〜む。やはり、消化管かな?)
 「え〜、尿に異常が無いので、胆嚢も大丈夫だと思うんですが。念のため血液検査で炎症反応や肝臓の検査をしてみましょう。 え? 胃袋は大丈夫なのかって?」
 なになに? 腹部エコーはやらないのかって? たぶん近所のエコーをするドクターに紹介して診てもらうことになるでしょうね。どうしてかというと、私はエコーが苦手なんですね。方向音痴なもので。

 というわけで、この日は心電図の検査と、尿検査、さらに血液検査(肝臓など)がなされました。

 さらに、数日たった△日、胃の検査(胃ファイバー検査{胃内視鏡の上手な呑み方参照}とか胃レントゲン検査)が施行されました。
この場合、胃ファイバーを行ったとしましょう。あやしげな病変があり、癌じゃないかと疑って、そこの所を病理検査しました。

 結果は、ビラン性胃炎という診断がつきました。(あんなに検査して、ビラン性胃炎? 藪ねえ。いや、申し訳無いですねえ、問診だけで胃炎とわかることもあるんですが、わからないこともときにはあるんです)

 このレセプトの病名欄には
 @狭心症疑い・胆嚢炎・肝機能障害 ×月×日
 A胃潰瘍疑い→ビラン性胃炎、胃早期癌疑い ×月△日

 なんて書かかれることになります。(胆嚢炎や肝機能障害も疑いじゃあないのかとお思いでしょうが、そうやたらに疑い病名ばかりつけていると、そんなに疑い病名ばかりつけてはいけないと審査の先生にいわれてしまうのです)

 本当は、@ビラン性胃炎 ×月×日 だけでいいと思うのですが。
 この病名でレセプトを出しますと、心電図と血液検査の点数が減点されます。理由は、胃の病気に心電図と血液検査は過剰である、医療の無駄遣いである、というわけです。
 まして、胃粘膜の病理検査はナニゴトデアルカとレセプトが返戻されてくるに決まってます。
 と、いうわけで、心の中で考えた病名をレセプトの病名欄にられつすることになるわけです。

**誤解を招くといけませんので、一言付け加えましょう。
私のところに「みぞおちがいたむ」と言ってきた人全員にこんなことはしていませんよ。だいたい問診と触診(おなかを押したりすること)であらかた見当がつきますからね。なかには紛らわしいこともあり、そういう例をあげて説明しているのです。**

 こういうことをやっていると、病名にうそを書く事になんの抵抗も感じなくなってしまうのです。

 ほらほら、だんだんモラルが低下して、不正請求の第一歩に。

 じゃあどうしたら良いのか。下の欄に書きましょう。
  

  
病名なんてその場で決まらないのに無理矢理決めちゃうからインチキなんですね。

 レセコンを使っている医療機関が多くなっていますので、そういう所は、その日に行った検査や治療内容をその都度オンラインで支払い基金に送るようにすれば良いのです。
 ただし、これにはいくつかの前提条件があります。

 今のままこれをやると混乱します。保険のルールが複雑すぎるからです。

◎まず、その月に2回以上診察しないと点数が異なるルールをなくする必要があります。例えば、毎月2回以上訪問して診療していると「寝たきり老人在宅訪問指導管理料」が算定されます。何らかの事情で1回しか出来なかった場合は、点数が異なるのです。これじゃあ、翌月1日に点数を入れなおして送らなくてはなりませんね。でも、一枚のレセプトとして見るわけではないので、医療機関では点数のいれなおしが抜けてしまうことが多くなるとおもいます。

◎また、慢性疾患の老人の場合に「老人慢性疾患外来総合診療料」というのがあります。これは、どんな薬を使用しても、どんな検査をしても決められた点数(1回目1035点、2回目735点−この点数の部分は4月から変わります)なのですが、急に病状が悪くなるとこの点数はキャンセルされて(その月のはじめから全部キャンセル)出来高になるのです。
(2002年10月からこの制度は廃止です)
しかし、2002年4月からの改定で、この制度は、2002年10月から廃止されましたが、慢性疼痛疾患管理料などややこしい制度ができ、算定要因も詳らかでないものも、いくつかあり、これらも改善されないといけません。

◎さらに、その都度診療内容を送るのですから、病名は翌月くらいにきちんと決めるとして、とりあえずは症状のみ記載するだけで良いということにしなくてはいけないでしょう。

 以上のような条件がクリアされれば、診療の都度支払い基金へオンラインで送る方法はとても便利で、紙の消費も少なくて済むわけですね。
 もちろん、レセプトのための病名も無くなるでしょう。
 先の例も
@急激な上腹部痛 ×月×日でいいわけで、うそを書く必要はないわけです。
 で、翌月に、もし診療が続いていたら
@ビラン性胃炎 ×月×日と変更すればよいわけですね。
 急激な上腹部痛であれば、心電図を検査することも、血液検査をすることも、胃の検査をすることも、腹部エコーを検査することも、少しも不思議ではないわけですね。
 今のルールでは症状だけを書いてレセプトを提出すると、「上腹部痛は症状であって病名ではありません」とレセプトが返戻されてきます。こういう不合理が改善されれば、オンラインで、その都度送る方法はとても合理的だと思います。
 

 
詐欺みたいな不正行為も報道されるけど、ああいうのは本当なんでしょう?

 残念なことにそういうこともあるんですね。
 詳細は塩谷郡市医師会ホームページのマスコミウオッチ「ある不正行為」をご覧下さい。この「ほーむ」のリンク集からたどっていけます。

 かいつまんで説明しますと、ある新しくできた診療所には、実質的オーナーである事務長と、院長、それにある大学から出向してくる専門医で構成されていました。

 専門医はあるデータが欲しいので、院長らと協力して近隣の事業所に頼んで、無料で採血したわけです。アレルギーのデータが欲しいと説明したという記事と、アレルギー患者が多いので指標としたいといったという記事がありますが、いづれにせよ、あいまいな説明で採血したわけです。

 こういうことは、こういう目的でこういう検査をするのだということを充分に説明して行わなくてはならないのですが、説明はいいかげんで、おまけに、事務長はこれらの費用を保険で賄おうと考えたらしく、保険証の提出を求めたのです。

 ところで、医療機関の不正請求が2000億円とも3000億円とも報道されたことは覚えておられるでしょう?
 この報道が間違ったものである事は、このホームページの「不正請求とは」で明らかにしてありますが、未だにマスコミは、その真相を明らかにしておりません。つまり金額で8割以上は保険の資格関係であり、残りの相当部分も医療機関にとっては納得のいかないものであるということを記事にしていません。

 と、いうわけで、医者の中にさえ、「不正請求はそんなにあるんだ」と考えている者もいるくらいなのです。
この新しい診療所が、そういう中でたいして罪悪感も持たずに「他もやってるんだろう」と安易な気持ちで不正請求を行ってしまったとしたら、マスコミにも一端の責任はあると考える私は、ちょっとおかしいでしょうか?

 まあ、このような不正請求は医者の信頼を無くする行為であり、私も弁護する気はさらさらありません。
 医者も人間ですので、弱い心も持っていますし、一般社会と同じに、名誉欲につっぱらかっている人や、金銭にとても執着なさる人もおります。

 ですから、上にも書いたように、保険のルールをもっと簡単にして、その日の診療分を支払い者側にオンラインで送ってしまうという方法をとると、よっぽど暇でもないかぎり不正請求なんて出来なくなると思いますよ。