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日本東洋医学会 関東甲信越支部
  
栃木県部会 第11回学術集会
  
宇都宮グランドホテル平成15年9月7日

プログラム・抄録集


(10:30)開会の挨拶 会長 粕田 晴之
  

(10:35〜11:05)一般演題セッションT  座長:戸村光宏(戸村医院)

1.竜胆瀉肝湯が著効を示した夜間大量発汗の一症例
               粕田 晴之 ほか(国際医療福祉大学 臨床医学研究センター 麻酔科)
 肺疾患で加療中に多量の発汗が出現。
 病的な多汗は、
 機能低下によって生じる虚証の多汗と機能亢進によって生じる実証の多汗とに分類するこ とができる。
 本症例は竜胆瀉肝湯から滋陰降火湯へ変方したところ著効を示した。


2.頚椎術後の下肢症状に当帰四逆加呉茱萸生姜湯が有効であった2症例
                                     吉田 祐文 ほか(大田原赤十字病院 整形外科)
 整形外科では様々な愁訴の治療に難渋することも多い。
 2症例はともに頸髄症の術後に寒冷に伴い悪化した下肢症状に対して
 当帰四逆加呉茱萸生姜湯の投与が有効であった。

3.膝関節術後患者に対して防已黄耆湯は有効であった
                                    大塚 稔 (茨城県立中央病院 整形外科) 
 術後の関節水腫に対しては、円板状半月板が損傷していると滑膜の反応性の増殖が起こること、
 さらに本来の硝子軟骨同士の適合性の不具合によるもの、などその成因に関しては、様々な説明が
 なされているが、明確でない。
 関節液は関節内滑膜が作り出すものであり、変形性関節症においては、これら滑膜の増殖が著しく、
 高齢者での円板状半月板損傷では、この変形性関節症に準ずると考えて良い状態である。
 これら関節液の増大は、半月板の修復という合目的な生体作用の結果であるが、
 その貯留が生理的な範囲を超えると、膝関節機能に障害を来す。
 すなわち滑膜ないしは関節液の修復機転を阻害することなく、関節液の貯留が適切であれば
 よいわけである。
 これらを考えると、防已黄耆湯は単に利水を行っているばかりでなく、
 防已・黄耆・蒼朮・大棗・甘草・生姜の各生薬の働きをもって炎症を抑えると同時に、
 貯留関節液の排出も行っており、胃腸障害を起こすこともなく、高齢者に良好な処方と考えられる。



(11:05〜11:35)一般演題セッションU  座長:金子 達(金子耳鼻咽喉科)

4.西洋医学的療法と和漢診療学的療法の併用が有効であった、冷えを伴った気管
支喘息の1症例
                                       加藤 士郎 (獨協医科大学心血管・肺内科)
 気管支喘息の呼吸不全症状には西洋医学的療法は有効であったが、
 胃部不快や冷えなどの不定愁訴には和漢診療学的療法が有効であった。


5.めまい症例の西洋医学的診断と東洋医学的アプローチ
                               越井 健司 (高根沢町 越井クリニック)
 内耳性めまいが、痰湿中阻型と関連性があるかも知れない。
 めまいを起こしているときは、利水剤を頓服的に用いるが、
気滞の結果として痰湿や血オを発生していることもあり、
証を的確に把握して根本原因を除くことが、めまい診療の鍵であると思われた。

6.ニューラルネットワークによる漢方処方支援システム〜実用化へ向けて
                                  竹田 俊明 ほか(自治医科大学 看護学部)
[目的]
 漢方薬の診断は多次元、多変量の複雑なパターン認識である。その体系をニュ−ラルネットワ−ク(以下NN)に組み込み、患者の症状データ入力から適切処方を導く診断支援システムを開発し、漢方のより広い利用に資することを意図した。
[方法]
 基本的に藤平健の漢方処方類方鑑別便覧((株)リンネ、1982)に示された疾患別のマトリックス型処方鑑別表に基づいた。
その内容を3層構造の階層型.N.において、誤差逆伝搬法で学習させた。
表に示された入出力関係を教師信号とし、ランダムな神経結合から出発して、データ入力と結合重みの修正を繰り返すことで学習が成立した。
NNは疾患、症状別に77個構築した。
[結果]
 1) 症状と推奨すべき漢方薬の組み合わせを学習させることが出来た。
 2) 実データへの対応能力を調べる一つの方法として、入力データに欠損を加えたものによるテストや、ノイズを加えた入力データによるテストを行って、パターン認識能力を確認した。
 3) 診断能力を指標に調査し、最適な中間層ユニット数を把握した。
[結論]
 77疾患について各々1つのNNを設計し、典型的な推奨すべき漢方薬の組み合わせを学習させることにより、全てのNNの学習を収束させることが出来た。学習を完了したNNは汎化能力、頑健性を持つ。また、簡便な入力のためのGUIを持った実用システムを作成したので、今後実地に利用して医師の診断との比較を行っていく。



(11:35〜12:30)―――――― 昼食休憩55分間 ――――――


(12:30〜13:00)一般演題セッションV 座長:満川博美(仁神堂クリニック)

7.精神遅滞の感情障害に補中益気湯が有効であった1例
                                            篠崎 徹 (那須高原病院 精神科)
 補中益気湯は元気がなく食欲のない気虚、気うつに用いる。
 特に、精神遅滞で主観的に症状を語れない場合、漢方的診察で気を補うことで
 心的エネルギーを高めることによりうつ症状が改善に向かったと考える。

8.精神科領域の漢方療法 
                                               手塚 隆夫 ほか (一番町クリニック)
 精神科領域における身体表現性障害に対し加味逍遙散および苓桂朮甘湯を用い著効を奏した.

9.長期不妊の患者に漢方薬が有効であった1例
                                              石塚 孝夫 (石塚産婦人科)
 漢方薬により体重のコントロールができ、ホルモンのバランスもよくなり、
 頸管粘液も良好になったため、妊娠に成功した。
 妊娠経過も安胎薬の当帰芍薬散で順調に経過した


(13:00〜13:20)総会

(13:30〜14:50)教育講演T 座長:村松 慎一(自治医科大学 神経内科)

1.薬の社会史 ―戦国時代の医師と漢方処方―
                          杉山 茂 先生
                        千葉大学薬学部卒 薬学博士
                    日本薬史学会監事 (株)カイノス取締役会長
 

 公演内容概説(文責HP担当者)
 山科言経日記をもとにして、内蔵頭、権中納言、公家であった言経(1543〜1611)が
 天皇の勘気をこうむり、大阪で医者をしたときの日記をもとにお話をいただいた。
 言経は、症状によって処方していたようで、頭痛、悪寒、咳嗽、発熱には、参蘇飲 茶調散 四物湯 
 升麻葛根湯 人参敗毒散とか、
 下痢、吐瀉腹中煩、腹痛には香薷散 人参丁香散 調中散 胃風湯などと記されていたようである。
 インポテンツに対する治療もしたようで、楊貴妃小浴盆というそうである。

       

 

(15:00〜16:20)教育講演U 座長:手塚隆夫(一番町クリニック)

2.心理的側面を考慮した更年期障害の漢方治療 
                                                  喜多 敏明 先生
                          富山医科薬科大学医学部卒 医学博士
                 千葉大学 環境健康フィールド科学センター 助教授

 公演内容概説(レジメ)
 
 産婦人科領域の漢方診療においては、血の概念とその病態(お血と血虚)が特に重視されているが、
 これは月経異常の背景に血の病態が存在すると考えられているからである。
 したがって、無月経や月経困難症、閉経に伴う更年期障害などはすべて漢方医学的には血の病態を
 中心に診断・治療されることになり、桂枝茯苓丸・当帰芍薬散・桃核承気湯・加味逍遥散・温経湯・
 女神散  といった駆お血剤が頻用されている。
 血の病態だけでなく、気の病態(気虚・気欝・気逆)や水の病態(水滞)についても診断・治療できるように
  なれば選択可能な漢方方剤の種類が飛躍的に増加する。
 また、血だけでなく気や水の病態についても理解することが、病人全体をよりトータルに診ることにも
 つながる。
 ところで、更年期障害をはじめとする産婦人科疾患には心身症としての病態を持つものが非常に多いと
 いう特徴があり、実際の診療において精神的・心理的な要因を考慮する必要性は今後ますます高くなっ
 ていくものと予想される。
 漢方医学は心身一如の医学であり、病人の身体的側面だけでなく心理的側面もまた証の診断には
 不可欠である。
 加味逍遥散や抑肝散加陳皮半夏が適応となる病人はイライラしたり、怒りっぽいという特徴があると
 されているが実際にはどうであろうか。
 演者は証の心理的側面について性格・心理テストを利用した研究を行ってきたので、
 その結果についても述べる予定である。


(16:20)閉会