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 杉山幸比古先生
[教育講演1]

肺気腫、COPDと漢方補剤

 杉山 幸比古
  (自治医科大学 呼吸器内科)

 COPD(慢性閉塞性肺疾患)は主に喫煙により、完全に可逆的ではない気流制限を生じる疾患で、肺気腫と慢性気管支炎が含まれる。肺気腫患者では、多くの例でヤセがみられ、呼吸筋力の低下が認められる。また、感冒をきっかけに急性増悪をきたし、入院する例も多い。COPDに対しては、気管支拡張剤を中心とした治療と症例によっては吸入ステロイドも用いられるが、対症療法の域を出ない。インフルエンザや肺炎球菌ワクチンも用いられるが、通常のカゼウィルスに対しては無力である。
 こういった西洋医学の限界がCOPD治療においては存在する。我々は、漢方薬の中の補剤に注目してCOPDへの応用を試みてきた。即ち補剤は、消化吸収能力をupさせて栄養面からの改善をはかり、それと共に、本来ヒトが有している免疫能を高めることにより、カゼなどにかかりにくくなると考えられる。補剤の中でも特に補中益気湯について、COPDに対する実際の経験と、基礎的な免疫賦活能について、臨床と基礎の両面からの紹介を行いたい。
[一般演題1]

柴朴湯が有効であった頚椎前縦靭帯骨化による嚥下障害の1例

 吉田祐文(大田原赤十字病院 整形外科) [一般演題2]

50年以上続いた外傷後ストレス障害(PTSD)が漢方薬で改善した1例

 松村崇史(済生会宇都宮病院 整形外科) 吉田祐文(大田原赤十字病院 整形外科)
[一般演題3]

抑肝散が著効を示した高齢者の精神運動興奮の1症例

 (医)手塚隆夫1)、山内浩2)、粕田晴之3)、戸村光宏、金子達、岡一雄、森島真、
 永野稔、(薬)国府正英、高田尚子、須藤美江子
  宇都宮漢方懇話会、1)一番町クリニック、2)新宿海上ビル診療所つるかめ漢方センター、
  3)自治医科大学麻酔科学教室
[一般演題4]

桂枝茯苓丸が著効を示した異型狭心症の一例

 泉田知子、渡辺慎太郎、峯崎賢亮、内藤真礼生
 (佐野厚生総合病院 内科)

[一般演題5]

六君子湯が有効であった脾虚の一例

 恵川宏敏、臼井要介、奥田圭子、奥田泰久、北島敏光
 (獨協医科大学 麻酔科学教室)[一般演題6]

心臓疾患に随伴する浮腫に対する五苓散と猪苓湯の有効性

 加藤 士郎
 (獨協医科大学 心血管・肺内科)[一般演題7]

漢方治療とEBM

 石川鎮清、藤原真治、福士元春(自治医大 地域医療)
 村松慎一(同 神経内科)
 斎藤仁、粕田晴之(同 麻酔科)[一般演題8]

アレルギー性鼻炎(主にスギ花粉症)における漢方と西洋薬の併用療法についての一考案

 金子 達(金子耳鼻咽喉科、宇都宮漢方懇話会)
 手塚隆夫、山内 浩、戸村光宏、永野 稔、岡 一雄、森島 真、九里武晃、粕田晴之、
 松村崇史、吉田祐文、国府正英、高田尚子、須藤美恵子、佐藤雄一郎、長 優子
 (以上宇都宮漢方懇話会)[一般演題9]

麻黄附子細辛湯の発熱抑制作用に対する検討

 柏渕成一
 (かしわぶち産婦人科) [一般演題10]

肥満、蛋白尿を伴った月経不順に柴苓湯が有効であった1例

 石塚 孝夫
 (医療法人 石塚産婦人科)
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 水嶋 丈雄 先生
[教育講演2]

自律神経から見た漢方投薬のコツ

 水嶋 丈雄 先生
 (水嶋クリニック院長、佐久総合病院 東洋内科嘱託、長野県)

漢方治療のなかで、いつも困るのは古典の理解と証の把握です。これは大変重要なことですが、臨床家としてはもう少し簡単にできないか悩むところです。
そこで新潟大学の安保先生が提唱された白血球の自律神経支配の理論が参考になります。つまり白血球の顆粒球は交感神経の支配で増加し、リンパ球は副交感神経支配で増加するという理論です。これは漢方薬が生体内で自律神経・内分泌・免疫にどのように働くかを知る一つの参考になります。例えば感冒は感染当初は鼻水・悪寒など副交感優位の状態ですから当然交感優位の漢方が要求されます。しかし4〜5日にて喉の痛みや発熱が出現すると交感優位になっていますから、漢方は副交感優位にしなければいけません。またこじれた風邪はどちらに優位になっているのか考えればどの漢方を用いるか必然的にわかってきます。
 そこで、種々の漢方薬を投与前と投与後に顆粒球とリンパ球の比率を測定してみました。そこでわかったことは、漢方を用いる原則である四神の考え方は自然免疫系の自神経とB細胞に働き、気血水や五臓に働く漢方は獲得免疫のTh1/Th2系に作用するという事です。たとえば、麻黄剤はエフェドリンの影響で交感神経に強く働きますが、桂枝剤は副交感にも働き、いわゆる軽く発汗させながら循環血漿量を増加させるということです。これが皮膚表面の実と虚という意味合いなのです。また附子剤はアコニンサンにて交感神経に優位に働くはずなのですがあまりはっきりとした変化はでませんでした。しかし白血球の平均値の5000でわけてみると5000以下の群で交感優位の傾向がはっき
りします。これは白血球の総数が新陳代謝と比例するからです。つまり白血球が5000以下の群は虚証で冷えがつよくこの群では附子は交感神経に強く働くのですが、あまり冷えが強くない群では副交感とのバランスがととのえられます。乾姜群でも同様のことがいえます。石膏群では炎症サイトカインのIL-6の総数で交感優位と副交感優位が分類されます。
 また柴胡剤では臣薬の種類によって作用が変化します。臣薬が黄岑GではTh1を増加させますが芍薬ではTh2を減少させます。補剤のグループでは優位にTh1を増加させます。
当帰剤はTh2を抑制しますが、桂茯剤ではTh1/Th2の調整にはたらきます。地黄丸剤や利水剤ではTh1を増加させます。
 これらのことから、漢方は免疫のどの部分に働くかによって使用方法を変化させなければ行けないのです。たとえばアレルギー鼻炎では初期の段階ではマスト細胞からヒスタミンが遊離されまた5〜6時間で好酸球が分泌されます。この段階ではB細胞に作用する小青竜湯を始めとする麻黄剤を用います。また冷えが強いときには附子を加え、熱が強いときには石膏をくわえます。しかし病期が遷延するとTh2細胞がその主体をなすため柴胡剤に変化させる必要がでてくるのです。喘息でも同様です。発作期では麻黄剤を中心に附子や石膏をくわえますが、遷延した寛緩期には麻黄剤や地黄丸剤が必要なのです。アトピーでは初期には麻黄剤や石膏剤でいいのですが遷延期には柴胡剤や当帰剤が必要になります。もちろんこれはTh2の優位のタイプなのですが、Th1優位の自己免疫型にはなかなか決め手がないのが現状です。これが当日にさまざまな取り組みを紹介したいと思います。
 ただし、アトピーでもリンパ球の優位の群にはステロイド治療はかなり有効なのですが、リンパ球は劣位 つまり交感神経優位になればステロイドはかえって炎症を惹起します。これはリウマチにも同じ事で、交感神経優位の群にはNSAIDsは血流を阻害し、かえって関節変形を増強させます。このような場合にはまず漢方薬を思い出してください。
 実際の症例を引用しながら当日はこれらのことを詳しく解説したいと思います。

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