シャープ 健康保険係 御中
レセプトの内容をチェックする係りの人へ
平成12年4月22日初診の「扁桃炎」です。
葛根湯7g 小柴胡湯加桔梗石膏4g を診療実日数2日で8日分処方したところ
理由B(過剰)ということで、葛根湯7g を減点されました。
これは、平成12年4月のレセプトなので、保険者からの再審査請求で減点が認められたものと、推察いたします。
過剰ということですが、過剰の理由がわかりません。
ツムラ葛根湯は7.5g、ツムラ小柴胡湯加桔梗石膏も7.5g
が常用量です。
葛根湯は7g 小柴胡湯加桔梗石膏は4g とういう量しか処方してないのですが
なぜ、葛根湯が過剰なのでしょうか?
能書によれば、両剤とも扁桃炎は適応になってます。
葛根湯は葛根・麻黄・甘草・大棗・桂枝・芍薬・生姜で構成されています。
主に発熱性疾患の初期や、急性増悪期に使用し、発汗を促し、痛みをとるとされています。
小柴胡湯は柴胡・半夏・黄ゴン・人参・大棗・甘草・生姜で構成されています。
主に発熱性疾患の長引いたときや、悪寒と熱感が交互に来るような時に使用されます。
桔梗石膏は桔梗と石膏で構成されており、消炎作用と排膿作用があります。
小柴胡湯加桔梗石膏は小柴胡湯に桔梗石膏を加えた方剤です。
葛根湯と小柴胡湯(加桔梗石膏)の意味は、柴胡桂枝湯の意味と似ています。
柴胡桂枝湯は、桂枝湯と小柴胡湯の両方の病期(軽い寒気もあるが、消化器症状もある発熱性疾患の時期)の薬です。
小柴胡湯と葛根湯の両方の病期(桂枝湯を使うときよりも強い炎症がある場合で、小柴胡湯の症状もある時期)には葛根湯と小柴胡湯を組み合わせた処方となります。
小柴胡湯加桔梗石膏と葛根湯の組み合わせは、上記組み合わせよりも消炎作用が強くなり、扁桃の炎症にもより効果的です。
*柴葛解肌湯(柴胡・葛根・甘草・黄ィ・芍薬・麻黄・
桂枝・半夏・石膏・生姜)
という、大変似たような方剤が昔からあります。
このレセプトの患者さんには、2回の受診で、抗生剤を常用量で合計7日分、上記漢方薬を合計8日分処方されております。
そのほかには、アズノールST
と、「咳が出るとかなりのどが痛む」というので、鎮咳剤を2日分だけ処方してあります。
この組み合わせが過剰ならば、一般の総合感冒剤(私は殆ど使用していませんが)を使用時に、さらに炎症の強いときに抗炎症剤を併用することは過剰ということになると思います。
上気道炎、扁桃炎、気管支炎などは、患者さんの抵抗力の違いで、症状は軽重さまざまです。それを同じ総合感冒剤で治療するという安易な方法をとれば、私も苦労しないですむのですが、やはり、患者さんの症状や体力に合わせて、治療をすることになると、葛根湯と小柴胡湯などの組み合わせが必要になるのです。
この組み合わせが過剰と考えられる唯一の理由は、生薬が、生姜・大棗・甘草の3生薬が重複するということだと、考えます。
これは、エキス剤ですので、多少の重複は仕方ないのですが、
葛根湯 7種類、小柴胡湯加桔梗石膏 9種類の合計13種類の中の 3種類です。
しかも、常用量を合剤してないわけですから、過剰ではないと思います。
小柴胡湯は常用量の50%強、葛根湯は常用量の9割強の使用ですが、それがどうして過剰なのか、納得できませんので、再審査請求をいたします。
以上の再審査請求を、栃木県の支払い基金に今月請求しました。
来月の、県の保険委員会でこの問題を話し合うことにもしています。
これは、漢方を良く知らない審査員が、シャープからの再審査請求を見て、減点したので、完全に審査の間違いです。
理由は、上記でおわかりですね。今まで同じ処方で問題は無かったのですから。
つまり、量的には過剰ではないし、生薬のダブりも少ないです。
よくなされる組み合わせは
小柴胡湯(加桔梗石膏)と葛根湯
小柴胡湯と桂枝湯(柴胡桂枝湯という方剤がありますがその量を変える場合)
麻黄湯と桂枝湯
麻黄附子細辛湯と桂枝湯
などがあります。
以上で明らかなように、症状によりさまざまに組み合わされることを知っておいてレセプトをチェックされることをお願いします。
たった500円位の減点で、このように抗議しますのも、
この、保険者からの再審査請求が認められたら、健康保険による漢方治療が出来なくなるからです。
保険者も、組合員の命、健康を守るのが使命のはずです。
無駄な医療費を削減するのは必要です。
しかし、患者さんの一人一人の症状に合わせて、治療するというのが無駄であるはずはありません。
漢方薬は、保険から目の敵にされますが、本当にそうでしょうか?
風邪症状なら、馬鹿の一つ覚えみたいに、皆、総合感冒剤と消炎鎮痛剤と胃薬と抗生剤の組み合わせ、の方が無駄じゃないですか?
その組み合わせで治る人もいますでしょうが、ちょっと胃腸の弱い人や、合併症を持った人はかなりこじらせるわけです。すると、余分に医療費がかかることになるわけですね。
2000年11月6日
戸村医院 戸村光宏
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