名作どうわ選 

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2003/11/29

 あわて床屋 」(童謡)です。


  北原白秋作詞、山田耕筰作曲の童謡ですが、私のご幼少のみぎり、
   聞いたことがございます。

  著作権があるかもしれないので、詞は書きませんが
  理髪業をいとなむカニさんのところへウサギさんがお客として来店し、
  耳をちょん切られちゃうという、恐怖に満ちた白秋先生のお話を、
  
耕筰先生がとても楽しい曲をつけて世に広められたものでございます。

  このことについて、面白いエピソードがございます。
  
小田原・隠れたエピソードというところです。こちら←クリック。

  今回は、某公共テレビ局の定時のニュースの時間から。

  これは『童話』じゃないって?

  そんな動揺すること言わないで!

 

(大勢の子供たちが正座して茶碗に盛られた芋を食べている映像が流れ、アナウンサーのにこやかな顔に切り替わり)
強芋式は室町時代から月光市三角寺に伝わる山盛りのお芋をむりやり食べさせられる行事で、参加した子供たちは、始めのうち「うまい、うまい」と舌つづみをうっていましたが、「やれたべろ、それたべろ」とまわりからはやしたてられ、のどにつまらせて、目を白黒させていた子もいました。
(アナウンサーの横から紙が出される)
え〜、ただいま入ったニュースによりますと本日午後3時ごろ、
山田県北原郡筰作村字白秋の小川の岸付近で、27歳になる兎さんが耳をきられました。目撃者によりますと、理髪店で整髪中、居眠りをしていたところを切られたということで、耳のまわりにはあぶくがまだ残っていたそうです。山田県警は、重要参考人として理髪店経営者カニ容疑者32歳を全河川に指名手配しましたが、カニ容疑者は逃亡先から、兎さんが急に耳を動かしたので不可抗力だ、と知人の猿に電話で伝えているということです。では、兎さんの収容されている病院の前からエビネ記者が報告いたします。
エビネさん、そちらの様子はいかがですか。

「はい・・・はい、え?・・・はい、あ、つながってる? はい、
あ、エビネです。こちら兎さんが収容されている病院の前です。
え〜、今タケヤブ病院長の記者会見がありまして、
先ほど、え〜、40分ほど前、4時45分頃に耳の縫合手術が終わって、
現在、すでに手術室を出て病室にいるということです」

兎さんの容態はいかがでしょうか?

「はい、意識ははっきりとしていて、しきりに水を欲しがっているそうですが、
水を飲ますと命に差し支えるということで、人参で我慢してもらっているとタケヤブ院長は言っております」

エビネさん、では引き続き、気をつけて取材してください。
え〜、スタジオには動物外科学博士のシジュウカラさんにおいでいただいておりますので、さっそくお話をうかがってみましょう。
兎さんの傷は重傷なのでしょうか。

「そうですねえ、直接見たわけではないのでわかりませんが、病院長の話では局所麻酔で行っているので、3日もすれば治るのではないでしょうか」

そうですか、傷は比較的軽いということですね。

「それよりも病院長は何か勘違いをされているようですね。兎に水をやると死んでしまうというのは迷信です」

そうですか、水は飲んでも良い、ということですね。
では、今度は耕筰村駐在所前のシマヘビ記者と中継がつながったようですので、呼んでみましょう。
シマヘビさん、

「・・・」

シマヘビサン、

「・・・」

つながらないようなので、もう少しシジュウカラさんにお聞きしましょう。

「外は暗いですから口笛をふくと出てきますよ」

そうですか、では、ピ〜〜〜〜。

「はいはい、シマヘビです」

あ、つながりましたね。そちらの捜査状況はいかがですか。

「はい、現在、カニ容疑者は逃走中です。村の消防団が明日の山狩りについて駐在と打ち合わせをしています。殺気立っている耕筰駐在所前から報告しました」

ご苦労様です。
シジュウカラさん、カニ容疑者はどこに潜伏してるとお考えでしょうか。

「カニは山狩りしても捕まりませんよ。小川付近の穴に隠れていると思います」

そうですか、ありがとうございました。
では、このニュースについては、状況が変わり次第またお伝えすることにして、明日のお天気を天気予報士のアマガエルさん、お願いします。
あ、ちょっとお待ちください。
(横からまた紙が出される)
え〜と、ただいま病院の前で動きがあったようです。そちらに切り換えてみましょう。
エビネさん、エビネさん、何か動きがあったようですが、状況をお知らせください。

「あ、エビネです。今、病院前の玄関が騒然として、報道陣がどっと押しかけています。
たった今、コチョウラン記者が取材してきましたので聞いてみます」
「ハッハッ(息を切らしながら)今、カニ容疑者が病院の玄関に現れました」

コッチョウランさん、どういうことでしょうか?

「はい、『不可抗力とはいえ事故をおこして申し訳ない』ということで、兎さんをお見舞いに来たのだそうです」

カニ容疑者がそういったのですね? 他に何か言ってましたか?

「兎さんの耳が居眠りしているときにも動くとは知らなかったと言っております」

そうですか、さっきちらっと映っていたようですが、カニ容疑者は何か包みのようなものを持っていたようですが、何だかわかるでしょうか? 危険なものではありませんか?

「はい、病院の事務員があらためましたところ、干し柿ですので危険物ではありません」

そうですか、お見舞いは干し柿なのですね? 

「干し柿です。昔ぶつけられたのを干しておいたのだそうです」

では事件も一段落したようなので、気をつけてお帰りください。
シジュウカラさん、どうやら解決したようですが、しかし、わざわざお見舞いに来るのだったら、なんで事故直後に逃げちゃったんでしょうか。

「たぶん、カニ君はアワをくったからでしょう」

・・・アマガエルさん、お天気をお伝えください。

おしまい

ニュース番組は大切です。

民放のニュース番組の解説者は、なんでも知ってるようにお話しますが、
ときどき、明らかに見当違いのことを言うときがあります。
皆様も、ご自分の職業やら身近に良く知っていることを、解説者がどう話
すか、注意してお聞きになるとおわかりになると思います。

あ、そうそう、午後2時近くに終わる番組でニュースを解説かたがた伝える
白髪のお方がおりますが、最後の駄洒落はよしていただきたいと、常々
思っております。

そうそう、カニさんは、お猿さんから投げつけられた柿を、干し柿にして
保存してたようです。
そんなこと常識? あ、そう。

あわて床屋の学術的考察をお望みの方はこちら
                             藪野菜加太