名作どうわ選

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 2003/1/18

 「天狗の葉うちわ」です。

  天狗から八手の葉みたいな「はうちわ」を騙し取った男が
  ねっころがって、自分の鼻を伸ばして遊んでいるうちに
  天の川の橋桁にされてしまったという、お話をご存知でしょうか?
 

  天狗の葉うちわ
          某テレビショッピングより・某俳優夫妻/販売係の男性 
 
俳優夫「みなさん、こんにちは。さあ、今日はどんなすてきな商品が紹介される
   のか、楽しみですねえ〜」

俳優女「ほんとう、わくわくしますわね〜」

客席「ソーネー」(などとざわめく)

販売男「では、本日はとっても素晴らしい商品で、世界にひとつしかない品物を
   紹介しましょう」

客席「エ〜〜〜〜〜!」ぜかいっせいに驚く)

販売男「これをご覧下さい」
(やつでの葉っぱみたいなものを取り出す)

販売男「これは『天狗の葉うちわ』といいまして、この前、さる有名な天狗から
   手に入れた、たいへんに貴重なものなんです」

(・・・実は火吹き竹かなんかと交換しただけなのに・・・)

俳優女「ちょ、ちょっと待ってください。これが、あの、『天狗の葉うちわ』
   なんですか? はじめて見ました〜」

客席「ヘ〜〜、ホシイワネ〜」(などとざわめく)

俳優夫「よく童話なんかに出てくるやつですね。でも、本当なんですか?」

販売男「ええ、試してみましょうか? この色の濃いほうが表なんですが
   こちらを手前にして、こうあおぎますと、ほら、私の鼻をご覧下さい。
   鼻が高くなってきたでしょう?」

俳優女「あら!! ほんとう!!」

客席「えぇ〜〜」(と驚きの声がいっせいにあがる)

販売男「すてきなお方とデートのときにちょっと使うと・・・
   ほら、こんな具合に・・・
   まるで欧米人のような鼻になります」

客席「ワァ〜〜、ステキネ〜」(などとざわめく)

俳優女「アラ〜、ギリシャ彫刻みたいで、ス・テ・キ!」

販売男「ありがとうございます」

俳優夫「エヘン、あ〜、本当なんですねえ」

販売男「それから、この色の薄いほうが裏側でして、こちらを手前にして、
   こう・・・あおぎますと、鼻が低くなって、ほら、もとに戻ります」

客席「おぉ〜〜」(と驚きの声がいっせいにあがる)

販売男「例えば、一人で留守番などしているときに突然玄関のチャイムが鳴ると
   驚きますでしょう? そんなときに、玄関の覗き穴って、見づらいですよ
   ねぇ」

俳優夫「そうそう、鼻が邪魔なんですよねぇ。そういうことって、よくあります
   よ、ねえ皆さん?」

客席「あるある・・あるある」(じゃまになりそうもない人までうなずく)

販売男「そういうときは、ほら、こう・・・あおぎつづけると・・・鼻がぺったんこに
   なって、便利ですよぉ」

俳優夫「あ〜! ぺったんこになりましたね〜!
   これは、塀のフシアナから覗くのに便利ですねえ!」

俳優女「アナタ!」

客席「まぁほほほ・・・」(いっせいに笑う)

俳優夫「これは、もう、掘り出し物ですねぇ。欲しいなぁ。
   でも、お高いんでしょうね〜、おいくらですかぁ?」

販売男「では、気になるお値段ですが、
   世界に一つしかないという、この『天狗の葉うちわ』は天狗の家に、代々
   伝わる由緒正しいものなのですが、
   今回は、特別セールで、
   百枚限りの限定販売ですので、お一人様一枚とさせていただきまして
   鑑定書をおつけしまして、
   ・・・9800円で、お願いいたします」

客席「えぇ〜〜」(と驚きの声がいっせいにあがる)

俳優女「えぇ! これが9800円ですか! これはお買い得ですわ〜」

販売男「実は、今回は特別に、こういうものも用意してございます」
(と、もみじの葉のようなものを取り出す)

俳優女「まあ、かわい〜! これは何なんですかぁ?」

販売男「これは、『天狗の葉うちわの赤ちゃん用』です」

俳優女「もみじみたいで真っ赤ですねえ。これほしいわぁ。おいくらですの?」

販売男「ありがとうございます。
   今回は先ほどの『天狗の葉うちわ』に赤ちゃん用をおつけいたしまして、
   一組で・・・9800円で、お願いいたします」

客席「えぇ〜〜」(と驚きの声がいっせいにあがる)

俳優夫「じゃ、これ、おまけですか?」

俳優女「お得ですわ〜」

販売男「この葉うちわは、あおげばあおぐだけ鼻が高くなるという優れものです
   からね。私は、この商品をご紹介できて、『鼻高々』ですよ」

客席「し〜〜ん」(と、しらける)

俳優夫(とりなすように)『天狗の葉うちわ』でどのくらい鼻が高くなるのか
   見てみたいですねぇ、ねえ、皆さん?」

客席「みてみた〜い」(と、もりあがる気配)

販売男「では試してみましょう。私もどのくらいまで高くなるのか、試したこと
   ないんですよ。
   そうですねえ、伸びすぎてお客様にぶつかるといけませんので、外に出て
   やってみましょう」

(皆、外に出る)

俳優女「あおむけの方がいいですわよ。空なら邪魔なものがないですから」

販売男「そうですね。・・・では、あおむけに寝まして・・・。
   あ、この洋服は汚れても大丈夫です。テレショップで五着千円で買ったん
   です。え? 紹介してくれ? じゃ、その前に、葉うちわで・・・」

(パタパタとあおぐ。5回あおぐ)

俳優夫(メジャーをとりだして)おお、高くなりましたねえ。たった5回で、
   75センチにもなりましたよ」

俳優女「ああら、今度は1メートル50センチ」

販売男「ひとあおぎで二倍になるんです、ほら、次は3メートル」

客たち「おぉ〜〜」(と、どよめく)

俳優女「あら〜、すごい勢いで伸びますのね〜。今度は6メートル。」

販売男「はい、12メートル」

俳優夫「24メートル、48メートル、96、192、384、768、
   もうすぐ、はね満ですなぁ」
(と、指を折って数える)
 (この夫は麻雀好きらしい。クンロク、イックーニ、ザンパーソーなどと計算するらしい)

販売男「まだまだ平気ですよ。それ、パタパタパタパタ・・・・・・」

俳優女「あら、先が見えなくなりましたわ。もういいでしょう。ね? 皆様」

客たち「そうねぇ〜〜」(と、うなずく)

販売男「そうですか? どうです、すばらしいうちわでしょう?」

俳優夫「いや〜、すごいですねぇ。雲を突き抜けましたですよ。
   もう、しばらく眺めていたいですねぇ」

販売男「そうですか? でも、バランスをとるのがちょっと難しいですね。
   おや、何か、鼻の先が変な感じがしてます。
   なんだか、紐で結わえられているような感じです。
   ・・・ちょっと、戻してよろしいでしょうか?」

俳優女「ええ、もう充分ですわ。ねぇ? 皆様」

客たち「じゅうぶんよねぇ〜〜」(と、顔を見合わせながら口々に言い合う)

販売男「では、こう、うちわを裏返してあおぐと、長さが半分半分になります。
   はい、パタパタパタパタ・・・・・・、ひゃ〜〜〜〜〜」

俳優夫「あれ〜、ロケットみたいに空のかなたへ消えてしまいましたねぇ」

俳優女「どうしましょう」

(空のかなたからかすかな声が聞こえてくる)

販売男の声す・・・み・・・ま・・・せ〜〜ん・・・

(空に向かって声をそろえて)
俳優夫・俳優女・客たち
せ〜の、どうしました〜

販売男の声た・・・す・・・け・・・て・・・く・・・だ・・・さ〜〜い・・・

俳優夫・俳優女・客たちどうやって〜

販売男の声つ・・・ぎ・・・の・・・しょ・・・う・・・ひ・・・ん・・・で〜〜

俳優夫・俳優女・客たち次の商品は何ですか〜〜

販売男の声そ・・・ら・・・と・・・ぶ・・・じゅ〜・・・た・・・ん・・・で〜〜す・・・

*印をクリックするともうひとつの結末が・・・(改定前のです)

おしまい。

テレビショッピングの番組って、つい見ちゃうことがあります。
「便利な充電式掃除機」
「べんりですね〜! 各部屋に一台づつ欲しいですね〜」
と、いうときは、
一回に一部屋しか使えないくらいの物だ、
という意味なのだということが、よ〜くわかりました。
パイナップルを投げつけたらスパッと切れちゃう包丁とか
下手なドラマよりも面白いと思いますです。
今回は、深い哲学的背景の無い、(いつもと同じという意味)
そこの浅い、ま、軽い読み物というか、テレビ番組の台本というか
そんな感じの童話です。
余り、世間のお役にたつようなものではございませんでしたことを
反省いたしております。
ま、ながすぎることも含めまして、しばらくぶりということで、
ご勘弁の程を。
                            藪野菜加太