不正請求とは

大部分がレセプトで架空請求する意図的な不正なのか。
診療行為が保険医療として相応しくないとして減点されることが多いのか。
それとも、他にもレセプトを返戻させられることがあるのか。
金額はどのくらいなのか? お答えしましょう。

  

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ほーむ

 
 不正請求ときくと、何を連想されますか?

 「診察もしてないのにレセプトを作って架空請求した」

 「やってもいない検査をやったように請求した」

 「30兆円の医療費のうち、数千億円もある。いや、数兆円はある」

 ごもっとも。マスコミや健保連の言い分しか聞いてないとそう思いますよね。

 数兆円というのは嘘ですが、では、数千億円という数字は本当でしょうか?

 答えは「本当です

  ちょっと、ちょっと、本当なの? そんなにお医者さんってずるいことしてるの?

 答えは「違います」

 じゃあ、なんで数千億円も不正請求があるの、ってお思いでしょう?

 答えは「厚生省と健保連が意図的に説明しないで数字だけ出したからです
   

 
 97年に新聞などで「国民総医療費は27兆円になった。しかも医療機関は2千億円も過剰に請求している」などという報道がなされました。
 医療費を支払う側の保険者側の言い分をうのみにして、TBSの番組では福留アナとアシスタントの女性と掛け合いで
「1日に生理的食塩水500本を一人の患者さんに点滴なんてこれは意図的な不正請求にきまってます」なんてやってました。覚えています?
 では、御説明いたしましょう。 

 朝日新聞などで報道された2000億円の過剰請求は、金額で8割以上が保険関係(保険証の変更遅れや番号違いなど)での誤った請求です。これらは改めて正しい保険で請求し直しますので、2000億円全てが過剰に支払われたのではありません。
 
 つまり、社保から国保へ変更になっても医療機関に届けるのが遅れたために間違った保険へ請求したというわけです。従って、医療機関へはそのぶん差し引かれて支払われ、その後で正確な保険へ請求し直すことになるのです。ですから過剰といわれるもののうちこの部分は過剰ではないのです。
 
 
この当時、支払側に「保険の資格関係の誤りは不正請求に入れると誤解を招くので別にわけて
 
発表してくれ」と県保険委員会で要求したのですが、「難しい」という基金側の返事でした。
 
そんなことはないわけで、他の県では発表してると言ったら、ついに明らかになりました。
 
やればできるんです。支払基金は意図的に発表しなかっただけなんです。

 では、その証拠をお示ししましょう。
 栃木基金ニュースというのがあります。これは支払側が発行しているものです。
 ついに、基金も明らかにしましたよ。
 
 1999年12月号の基金ニュースによりますと
  資格関係の誤りの請求は栃木県で同年7月から9月まででなんと4億1700万円もあるんです。
 つまり「栃木県のこの関係の返還は1999年7月から9月分の3ヶ月で4億1700万円である」というわけです!
 ということは、
1年間で16億円余りになるということになります。
 
  内訳は
      ○資格台帳と照合しても確認できなかったもの(記号や番号の写し間違え) 1億7455万円
      ○本人と家族の別を誤ったもの 3476万円
      ○資格がなくなっているのに診療して請求したもの 1億8287万円
      ○重複請求のもの 1094万円
      ○業務上の傷病なのに保険請求したもの 57万円
      ○健保適応外の病名について請求したもの 179万円
      ○老人保険や国保に該当するもの 966万円
      ○給付期間満了のもの 197万円
       と記載されています。

 保険証は受診する度に持ってきてください。
 田舎では、顔を見れば誰だかわかるので、持ってこない人がいるんです。
 当院では、月に一度は確認する事にしてるんですが、それでも抜けることがあるんですね。
 また、たまに、保険者の記号を間違えてカルテに記載する事もあります。
   (なにしろ、「
」とか「」なんていうのもあるんですよ)
 コピーしてカルテに貼ればいいんですが、他人の保険証をコピーしてはいけないのだそうです。
 
 あとの金額で2割、件数で半数は、心電図を2回検査したのが多すぎるとか、この薬はこの病気には使うのは過剰な診療である、なんていうのです。
 また、このなかには多くの病名モレ、つまりレセプトに病名を追加するのを忘れたものが多いのです。
  
もちろん、本当に不正な事をしている犯罪的なものもあります。
  それは否定はしません。でも、それはごく一部で、摘発されます。
  
それと、これとは別であると理解して欲しいんです。

 「1日に生理的食塩水500本を一人の患者さんに点滴なんてこれは意図的な不正請求にきまってます」
 という冒頭のことについて説明しましょう。
 こんな請求は、コンピュータの入力ミスにきまってます。だれが審査したってチェックします。
 これは、生理的食塩水のコンピュータ用記号を入力して500と入力したんでしょうね、きっと。
 生食の記号が生食500ccの記号だったんでしょうね。
  だから生食1cc 500と入力したつもりが、生食500cc 500となっちゃったんでしょう。
  こういうミスがなぜ審査を素通りして、保険者までいっちゃったのか。
  次の段落を見て下さい。
 

 
 どうしてこんなミスがあるのか?

 
 先の例で、TBSブロードキャスターのプロデューサーに以上のような説明をしたところ、

 「ケアレスミスね。それはミスしたほうが悪いんでしょ!」だって。

 けんもほろろでした。

 そりゃあ、ケアレスミスですよ。どうしてこんなミスがでるのか?
 当院の場合を説明いたしましょう。

◎レセプトがレセコンから機械的に打ち出されてきます。
 一時に何百枚も打ち出されます。
 当院の場合、
毎日入力している者が、チェックして社保一般・本人・老人に仕分けします。もちろん、国保に関しても同様です。そこで一通り事務的な誤りをカルテを見ながらチェックします。
 (外来管理加算がよけいに入力されているかとか、いないかとかなど)
 次に、
私がチェックします。主に医学的なチェックです。
 例えば、病名が適切であるかとか、検査はちゃんと入力されたかなどです。
 その次に、
事務員が二人でもう一度、事務的なものに関してチェックします。

 このようにして、都合4人でチェックしています。
 まず、このようなチェックで、
全体の10%位の訂正しなくてはならないレセプトが発見できます

 10%も!

 まず、関係ない病名が残っているものが多い(治った病名はレセ入力者にわかるようにカルテに治癒と書かなくてはならないのですが、結構忘れています。誰が? 私が)。

 次に、必要な病名が抜けている。ブロードキャスターのプロデューサー[女性でした]ケアレスミスね!って鼻で笑ったやつ
 どうしたって、抜けることがあるんです。
 高血圧症で診ている患者さんが、帰り際に腰が痛いのでちょっと診て欲しい、なんて云われて、また診察して治療をしたときに、カルテに病名を記載するのを忘れてしまうことって、結構あるんです。
 誰が? 私が。

 その次に、「あれ、この患者さん糖尿病の検査したよね、検査の項目何にも書いてないよ」
そう、老人医療の場合、今まではどういう治療でも自己負担が定額でしたから、忙しい時は、カルテの点数欄はあとまわしにして、会計だけすませてしまうことがあり、検査の点数を記載わすれすることもあるんですね。
2002年10月からは全て定率になりましたが。

 こうして訂正していても、チェック漏れがどうしても出てしまいます。
 
当院の場合は1%くらいあります
 そうです、毎月数枚のレセプトが返戻されたり減点されたりしております。
 
面目ない話ですが。

◎レセプト審査でどうしてチェックされないことがあるのか。
 数百枚のレセプトの点検でも以上のようなあんばいです。
 レセプト審査では一人で数万枚のレセプトを点検するわけですから、大変な事です。私は審査員に大変同情いたしております。本当ですよ。変な審査をすれば、医療機関からも、保険者からも文句を言われるし。

 つまり、どうしても人間が見ているのだからもれちゃうことってあるんですね。
 たまたま、もれちゃったのが、保険組合(というよりも会社の保険組合から委託されてチェックする商売人)での点検で指摘されるというわけです。

 前にも少し書きましたが、本当の不正請求(架空請求など)をするようなところは、だいたい見当がついいて、証拠があがれば摘発されるでしょうし、また、どうも治療方法がバカに丁寧過ぎる(つまり一般に比べて濃厚すぎる)医療機関は審査する側でもわかっていて、重点的に審査するわけです。

 それ以外の、ごく一般的な医療機関は、そういうことをしていないのですから、どうしても余り厳重に見なくなりがちなのです。
 そんなわけで、たまたま発生した重大な入力ミスが、さらに医療機関でのレセプト点検でももれて、審査会でももれて、保険者へ行ってはじめてチェックされて。あげくのはてにブロードキャスターで
「意図的な不正ですよ。いったい医者に良心なんてあるんでしょうかね」なんて福留アナにいやらしくいわれちゃったんです。
 そういう医療機関って、問題のない普通の医療機関なんですよね。だって、問題ある医療機関だったら、審査では厳重に見られているはずでしょ。
(解決するには、どうしたらいいのか。☆おまけ☆コーナーに書いてありますので、よろしかったらご覧下さい)