医科歯科詩歌いかしかしいか
1998年11月(大全その8) |
| 文学の秋。日々の診療にくたびれはてた精神をリフレッシュするには、高尚 |
| な文学に接するのも一つの方法である。古今の医療関係者の優秀な詩を集めた |
| 『詩歌集』が発刊されたので数編を紹介する。編者は犀頭藻紀治さいとうもきち。 |
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| 「秋の詩」 歯科医師 鈴濡零濡べるぬれいぬ |
| ちまたに雨の降るように |
| 秋の日に歯を削るためいきは |
| ぼくの心をいたませる |
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| 「生物」 検査技師 佐久太郎さくたろう |
| 生物の心は病み、そのうわべは哀しむ |
| この器に透き通る液体は濃く |
| オレンジ色ばかりせんなくて |
| ああこの尿をば何に例えん |
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| 「医学校附属病院」 看護婦 宮澤賢子 |
| こんなに大勢に見つめられながら |
| あなたはまだここで治療をうけるのか |
| (ああそんなに |
| かなしく目をそらしてはいけない) |
| わたくしは心からねがう |
| 学生のいない病院へ行くことを |
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| 「心臓」 薬剤師 北腹白衆 |
| 釣り鐘型のジギタリス |
| 光る心もいとおしや |
| そなたの心の疲労困憊くたびれを |
| 甘い薬液くすりの香りで治す |
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| 「羞じらい」 作業療法士 高原高也 |
| 何故に わが心 かくは羞じらう |
| 机の上の粘土細工を かくは羞じらう |
| 今日の日を いつと知らぬ君の作る象 |
| この場所を どこと知らぬ君の作る象 |
| ああ! わが象は 何故に
河馬に似る |
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| 「時には虫歯のない子を見たい」 歯科技工士 寺矢摩周子 |
| 時には虫歯のない子を見たい |
| だまって口の中を見ていたい |
| だけどそれでは私は困る |
| 私のすること何もない |
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| 「一握の薬」 内科医師いし 川田窪句かわたくぼく |
| 韜晦とうかいの 厚生省の薬事審やくじしん |
| われ泣き濡れて 治験うたがう |
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| 犀頭藻紀治は、この『医科歯科詩歌』を、医療関係者の『万葉集』にしよう |
| と意気込んで編纂したらしい。しかし、どこか見たようなフレーズが多い。 |
| 質もそれ程高くもない。 |
| 『万葉集』ではなく『百葉箱』程度か。 |
| 参考文献:いろいろな詩集 |