医学怪文書大全〜ハウツー物の館〜 |
注射入門 |
《 血管注射に失敗する 欠陥医療従事者や、アンプルをカットできない医師が |
増加傾向にあるという統計を見て、入門書の必要性を痛感し本書の出版を企画 |
した。病棟回診や外来診療の良きパートナーとして、白衣のポケットの必需品 |
となるべき 》本であると序に書いてある。 |
ある大病院の医局の本棚で見つけたので紹介する。著者は日本注射手技研究 |
所の社長で医学博士の針野照藻はりのてるもである。 |
『やさしいアンプルカットの方法』から始まるのだが《 ヒヨコを掴むように |
持て 》とか、カットの際も《 親の仇を討つように力を込めると、手掌の中で |
アンプルが潰れて流血騒ぎになるが、患者は同情してくれない》など、さほど |
目新しいことは載っていない。 |
さらに『注射筒への薬液の入れ方』『針の刺し方』などが続くが、内容は退 |
屈なので割愛して『効果的な練習のしかた』を紹介しよう。 この部分が著者の |
強調したい部分らしく懇切丁寧に解説されている。 |
《初心者のうちは枕を利用して針を刺したときの感触を覚えるとよい》と言う。 |
枕は籾殻が良いそうだ。また、枕カバーの下に針を滑らせるように入れると、 |
静脈注射の練習に最適とも記されている。また、診療科により枕に限らず特殊 |
な物もあり、歯科の歯槽膿漏の練習用に熟柿じゅくしを、眼科用には蒟蒻こんにゃく |
ゼリーと甲州葡萄こうしゅうぶどうを推奨している。 |
さらに上達するには《堅物かたもの通とうし、浮物うきもの通し、生物いきもの通し》 |
をマスターすべきであるという。 |
〈堅物通し〉は木の板を用いて針を折らずに刺す訓練法である。桐から始めて |
樫の木、さらにベニヤ板をクリアできれば、次に〈浮物通し〉に挑戦すること |
になる。これは《 洗面器に胡瓜や茄子を浮かべて水を満たし、こぼさないよう |
に注射針を刺す》練習のことである。《細心の注意を払い刺すことが肝要であ |
るが、ゆっくり刺すと浮物が沈んでしまい、水がこぼれて失敗する。思い切っ |
て一瞬のうちに刺すのがコツ》という。《居合い抜きの極意に通ずる》と書か |
れている。上達すると糸こんにゃくにも刺せるそうだ。 |
〈生物通し〉は犬や猫で練習することである。 |
《 猫を捕まえて注射するのだが、鳴かさないように刺す》のが目標とされる。 |
《 初めのうちは、引っ掻かれるのでよく爪を切っておくことが大切である》と |
親切なアドバイスもある。 |
以上が出来て後に人体に刺すのであるが、まず《自分のかかとで練習せよ》 |
という。痛くなく出来るようになったところで《 やっと他の人に注射すること |
が許されるのである》 |
何事も基礎練習が大切のようである。 |
*参考文献:はり入門 |
ダイエットの友 |
栄養士の指導の甲斐もなく、肥満や糖尿病の食事療法に失敗する例は少な |
くない。そこで失敗しないための患者用読本が出版されたので紹介する。 |
著者は小和井饅重といい、肥満を克服した人物であるという。医学には素人 |
なので、親しみやすい内容である。表紙の帯には《食卓に必ず置くこと》と |
ある。食べようとしている食品が載っているページを読むだけでダイエット |
効果は抜群だという。 |
夕食はエビフライなので、エビフライのページを開けると、 |
《 一昨日に揚げたエビフライが戸棚の中にあった。 愛猫のチロに食べさせ |
た。大変うまそうに尻尾まで食べた。間もなく猫の鼻が白くなって、目玉が |
天井を向き、背中を丸めたかと思うと、細切れのエビと黄色い衣が口の中か |
らシチュー状の塊となって(以下略)》と絵入りで載っていた。なるほど、 |
たちまち食べたくなくなった。 |
小和井氏は身長五尺三寸、体重十六貫(大正生まれなので尺貫法である) |
なのであるが、ダイエット前は五十二貫もあったという。自己の工夫と研鑽 |
でこの肥満の解消に成功したので、その方法を原稿にまとめたという。長年 |
埋もれていたものを「全日本食事療法友の会」で発見し、出版したものであ |
る。 |
ダイエットには間食は禁物である。知り合いの家を訪問し、お茶菓子を出 |
されたときに開くページを紹介しよう。 |
カリントウの場合は |
《 愛犬のジョンと散歩に出た。いつもの散歩道である。 急にジョンが鎖を |
引っ張って駆け出し、草むらの匂いを激しく嗅ぎだした。見ると、焦げ茶色 |
の少しつやのある一寸五分位のが三個ばかり並んでいた。隣家のポチの仕業 |
だ。ジョンはさも憎らしげに嗅いでいたかと思うと、いきなりがぶりと口の |
中へ(以下略)》とある。 |
饅頭の場合は、馬が出てくる話と牛が出てくる話が載っている。興味ある |
向きは「友の会」まで問い合わせられたい。在庫はあるようだ。 |
とにかく、あらゆる食品が網羅されていて、うどんやそば、カレーライス |
から栃木名物シモツカレまで載っているのはうれしい。注 |
最後にチョコレートパフェのページを紹介。 |
《チロに子猫が生まれた。何にでもじゃれて大変可愛い。可愛がりすぎて食 |
べさせすぎたらしい。昨日から便がゆるい。白いシーツの上にチョコレート |
色のとろっとした(以下略)》 |
よく選んで、不必要な食品の項だけ読んだほうがよい。全部読むと栄養失 |
調になる。 |
注:シモツカレとは栃木名物らしい。大根を粗くおろして、人参も入れて、酒かすとか、豆、 鮭の頭なんかを混ぜてよく煮るという、大変な代物。 挿し絵を見たい方はここをクリックしてください。 |