柳沢の天皇杯

  柳沢は好きなタイプの選手です。
  ま、白状すると『ファンです』
  しかし、世間からは何故か正当な評価を受けていません。
  07年から08年にかけての天皇杯での活躍を見て下さい。
  柳沢選手は、移籍してしまうのでしょうか?
  もしかしたら、鹿島での最後のプレーかもしれませんが
  今回の活躍の一端をお示しして、
  私の新年のございさつといたす所存でございます。  

 

 


天皇杯の柳沢 08/1/3up

2007年12月22日、鹿島の天皇杯準々決勝の相手はホンダだ。
JFLのホンダは、カテゴリーが2つも上の柏や名古屋を連破している。
運動量が多く、前線からのプレスは上位チームのミスをさそい、すばらしいゴールを量産したチームだ。

15日の甲府戦、途中出場した延長戦にヘディングで決勝点を決めた柳沢は、ホンダ戦でも途中出場だった。
0対0。
またも延長戦。
坊主頭になってから一段と進化した本山が、左から中央へ向かってするどいドリブルで切り込む。
ホンダの選手が二人、本山のドリブルに対応しようとする。
本山とゴールの間には興梠と柳沢が重なるような位置にいる。
本山は二人の方向へ、グランダーの縦パスを送る。
その瞬間、柳沢は興梠から離れるように右へ走り出し、さらにゴールへと90度方向を転換する。
興梠は本山のパスをうけ、ダイレクトで柳沢へ送る。
あとは、ホンダディフェンダーを振り切ったフリーの柳沢がゴール右隅へとボールを蹴りこむだけだった。
本山・興梠・柳沢の、ドリブル・パス・するどい動きからのゴールは、私がテレビ中継で観戦した今回の天皇杯のなかで、一番のゴールシーンだ。

2008年、元日。
広島との決勝戦。
1対0で鹿島のリード。
準決勝に続いて、柳沢は終了間際に田代と交替して出場した。
1点リードの場面での、後半44分を回っての出場。
時間稼ぎだ。
柳沢にとっては屈辱的な役回りだ。
でも、右内転筋をいためている状態では致し方ないのか。
広島は、後半40分過ぎ、ロングボールを多用して鹿島ゴールへ迫る。
前線の選手が疲れて動きが少ないせいで、鹿島のクリアーが広島のボールになってしまう時間帯での、交替だった。
ロスタイムは3分。
柳沢は精力的にボールを追いかけて、鹿島のクリアが、単なるクリアにならないように心がけているように見えた。
もう数十秒でロスタイムも終わろうかという時間帯。
クリアボールをダニーロが競って左ペナルティエリア付近の柳沢にパスを出したが、オフサイド。
キーパーが大きくボールを前線に蹴る。
鹿島の選手がヘディングで右方向へクリアする。
広島の森崎が右タッチライン際でその浮き球をコントロールしようとする。
このままでは鹿島はゴール前でまた釘付けになる。
そのとき、背後から柳沢が走り寄る。
数秒前には、敵陣内左サイドにいた柳沢が、自陣右タッチライン際へ走りこんできた。
柳沢は、森崎よりもはやく回り込み、右足つま先でボールをつついて、内側にいた本山にパスをした。
本山はドリブルでハーフラインを越え、反転して平行に走る柳沢とパス交換した。
たいていのチームは、右コーナー付近までボールを運んで時間稼ぎをするのだろうが、本山と柳沢のコンビは違っていた。
三人の広島の選手が本山と、近くにいる柳沢を囲もうとしたとき、柳沢はするすると内側のペナルティエリア方向へと離れる。
本山はボールキープをせず、相手選手の意表をついて柳沢へパスをした。
柳沢は左へ向かって真横にドリブルした。
縦に抜いてシュートする選択もあったのに、そのまま、もう一歩左方向へドリブルし、左足のインフロントでパスを真横に蹴った。
テレビ画面にはパスの先には一人の選手も映っていない、
このとき、NHKテレビ中継の解説は、アテネオリンピック代表監督だった山本昌邦と、木村和司だったのだが、木村はいつもの驚いたときのくせで鼻で「ふふーん」といい、山本は笑った。
「また、シュートを選択しなかった」という思いが解説者の反応からうかがえた。
弧を描くようにペナルティエリアを横切るボール。
一瞬の笑い声は感歎の叫びに変わった。
突然画面に飛び出してきたダニーロの強烈なランニングシュートが、キーパーの手をはじいてゴール右隅に突き刺さったのだ。

笑顔の柳沢がダニーロに抱きついた。
鹿島の選手がひとかたまりになり、歓喜がうずまく。

試合が再開されて間もなく終了のホイッスルがなる。
柳沢が絡み、ボールが左タッチラインの外に出たときだった。
柳沢は、険しい表情をしていた。
疲れ果て、すわりこんだ小笠原を柳沢は抱きかかえるようにして起こした。
鹿島を去るのだ、と私は思った。
しかし、天皇杯を高円宮妃殿下から受けとった柳沢は嬉しそうだった。

左サイドから猛然と駆け上がってくるダニーロを見ていた柳沢。
そして冷静に、しかも速い、実に絶妙なパスを送った柳沢。
甲府との延長戦、柳沢はお手本のようなヘディングシュートを決めた。
左からの絶妙のセンターリングの送り手は、ダニーロだった。
そのときも二人は途中出場だった。

40年近く前、アーセナルシュートを練習したことがあります。

センターリングをシュート気味にニアポストに向かって蹴り、
フォワードがキーパーや相手ディフェンスと交錯するように飛び込み、ゴールするという、実に荒っぽいシュート。
しかし、アーセナルはいつもそのようなシュートばかりしていたわけではなく、もちろん普通のシュートもあるわけです。
しかし、フィジカルに頼る、当時の英国リーグの、特に、アーセナルの戦い振りを象徴したようなシュートだったので、そのようなゴールが決まると、印象深いためか、「アーセナルシュート」と呼ばれたのかもしれません。
今もそういうかどうか知りませんが。

きゃしゃでひ弱な我々のチームではとうてい真似のできないシュートではありました。

柳沢のプレーを「ゴールへの意識が足りない」と、10年前に当時も日本代表監督であった岡田監督に指摘されています。
以来、柳沢がゴール前でシュートではなくパスを選択したり、
シュートに失敗すると、ことさらにクローズアップされつづけてきたように、私には思われてなりません。

柳沢は、素晴らしい選手であると思います。
その証拠に、サポーターの「ヤナギサーワ」という「柳沢コール」が、今回もなりやむことはありませんでした。
 YouTubeでみる柳沢コール

しかし、そうはいっても、私も柳沢は1列目というフォワードではないと思います。
その運動量の豊富さ、動きの質からみて、1.5列の選手だと、一緒に観戦した私の家族も指摘していたのですが、そのとおりだと思います。
1.5列目の選手が活躍できるシステムがうまくいけば、日本のサッカーはずいぶん強くなるだろうし、面白いゲーム展開ができるのではないかと思います。
今回の第二次岡田ジャパンには、前回のような守備的ではなくて、魅力溢れる代表チームをこしらえてもらいたいものだと願っております。