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第2回市民公開講座
2004
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二回目の市民講座は、230人の皆様のご聴講をいただきました。
今回はサブホールで、階段状の座席の会場でしたので、後の方も良くご覧になれたかと思います。
上記写真は、受付準備中の一こまと、階段状の客席の様子です。
宇都宮ばかりでなく遠くからも多勢の皆様が聴講に来て下さいました。
粕田会長の挨拶
寒い日が続きますが、皆さま風邪などひいておられませんか?
さて、21世紀の医学教育に東洋医学が導入され、医師は西洋医学と東洋医学の併用あるいは使い分け
を正しく実践することが求められ時代となりました。本会は、東洋医学を通じて医学・医療に貢献すること
を目的としており、その役割と責任は一段と高まっていると言えます。
そのような背景のなか、昨年2月、栃木県部会はじめての試みとして「市民公開講座・漢方で元気」を
開催いたしました。会場の栃木県文化センター(第1会議室・定員150名)は満員で、市民の皆様の漢方
に対する興味と期待の大きさが感じられました。そこで、今回は会場をより広い会場(サブホール)に移し
「第2回 市民公開講座」の開催をする運びとなりました。
第1回目の講座は、テーマを「漢方で元気」と題して身近な病気 「不眠症」・「花粉症」・「冷え症」・
「頭痛」を取り上げましたが、今回第2回目の講座も身近な病気を取り上げさせて頂きました。
第一部のミニ講演では「便秘と下痢と腹痛と」・「肩こりと腰痛」・「アトピー性皮膚炎」を取り上げま
した。
特に治療に難渋することの多い「アトピー性皮膚炎」の講師には、その道の第一人者 二宮文乃
先生を
静岡県からお招きしました。
第二部の特別講演には、精神科医でかつ漢方医学にも造詣の深い 水島広子
先生に、「心のケアと漢
方」と題してお話いただくことになりました。衆議院議員としてお忙しい活動のなか講師をお引き受け下
さいました。
第三部では、あらかじめ頂きました「漢方相談」を中心に、ご質問に回答させて頂きます。
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「便秘と下痢と腹痛と」 戸村光宏(栃木県保険医協会会長)
病院で検査をしても、ガンや炎症などの病気が無いのになぜか便秘や下痢、腹痛に困っている方がおら
れます。きょうは、そのような方へのお話を致します。
なぜなら、漢方はそういう病気の治療が得意だからです。
便秘の方で、市販の下剤ですっきり治る人と、お腹が痛くなる人がいます。
下剤でお腹が痛くなるタイプの便秘は、腸がけいれんするために起こるのです。
下剤の刺激で腸がよけいに動いて、お腹が痛くなるのです。兎の糞みたいな便がでることが多いです。
ですから、けいれんを和らげる桂枝加芍薬湯などを使います。
慢性の便秘の治療に下剤を漫然と使っていると「下剤中毒」になることがあります。
治療の基本は運動と食事療法が大切です。
食事の内容も、腸がけいれんするタイプの人と、そうでない便秘の人では少し違いがあります。
繊維の多い食べ物は便通を良くしますが、けいれんするタイプは消化の良い食べ物が良いのです。
慢性に続く下痢にも、便秘と同じように腸がけいれんするタイプの下痢があります。
この下痢は、会社や学校がお休みのときは起こらないのが特徴です。
腸のけいれんをおさめる芍薬や甘草を含む漢方薬が用いられます。
けいれんするタイプの便秘と同じような薬です。
何故ならどちらも「過敏性腸症候群」という名前がつけられる病態だからです。
また、消化・吸収する力が弱いために慢性的に下痢に悩む人もいます。
このような場合は朝鮮人参が含まれた漢方薬が有効です。
いずれにしろ、いろいろな臓器の不調は、脳の影響がとても大きいのです。
こころとからだにかかるストレスが、腸の動きにも大きな影響を与えます。
桂枝加芍薬湯などの漢方薬は、腸ばかりでなく脳にもはたらいてリラックスさせる作用があります。
・桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)腸のけいれんをとる。
麦芽糖を加えると小建中湯(しょうけんちゅうとう)となり、
腹痛を和らげる効果が強くなります。
・大建中湯(だいけんちゅうとう)腸をうごかします。
・麻子仁丸(ましにんがん)便を滑らかにします。
・人参湯(にんじんとう)胃腸を温めて消化をたすけます。
・五苓散(ごれいさん)胃腸による水分を吸収する力をたかめます。
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「肩こりと腰痛」 北島敏光(獨協医科大学麻酔科教授)
肩こりと腰痛は日常もっとも多く見られる症状で、もともと四足歩行だった人類の先祖が二本の足で立つ
ようになったことに起因するといわれています。肩こりや腰痛に対しては色々な治療法がありますが、
漢方薬が著効することがあります。漢方治療では肩こりや腰痛の原因によって使用する薬剤が異なりま
す。
肩こりが精神的ストレスによる場合は、柴胡加竜骨牡蠣湯、四逆散、加味逍遥散などの中から最も適し
た漢方薬を用います。
虚弱体質や体力の低下した人では、補中益気湯を使用します。外傷や打撲が原因の場合は、疎経活
血湯、桂枝茯苓丸などが使用されます。高血圧などによる肩こりには葛根湯、桂枝加朮附湯、ヨクイニン
湯などを使用します。
腰痛では、寒さや湿気が原因の場合、桂枝加朮附湯、当帰四逆加呉茱茰生姜湯、苓桂朮甘湯などを
用います。
中腰で重い物を持ち上げたり、急に腰をひねっったり、打撲などで起こった腰痛には、疎経活血湯、
治打撲一方などを使用します。
高齢者の方で腰の骨が変形して重だるく痛む場合は、八味地黄丸、牛車腎気丸、六味丸など中から
適した漢方薬を用います。
肩こりや腰痛は日常生活を見直すことによって予防することができます。また、薬物療法以外にも針治療
神経ブロック、理学療法などの治療法があり、最適な治療法を見つけることも重要です。
・柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
・加味逍遥散(かみしょうようさん)
・疎経活血湯(そけいかっけつとう)
・葛根湯(かっこんとう)
・桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)
・当帰四逆加呉茱茰生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
・八味地黄丸(はちみじおうがん)
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「アトピー性皮膚炎の治療は漢方で」 二宮文乃(静岡県アオキクリニック院長)
アトピー性皮膚炎は体質的な素因に食物や環境因子が加わって発生します。
大部分はアレルゲンによるアレルギーですが、虚弱体質による皮膚防御機能の低下で発生する場合
はアレルゲンが陰性の場合もあります。
漢方医学的に見ると、
(1)先天的な腎(腎、膀胱、副腎を含む)のエネルギー不足があります。
(2)後天的な胃腸の虚弱による栄養不足がみられます。
(3)そのために身体表面のエネルギー不足を生じ、皮膚炎が発生します。
現代的皮膚科の治療では、痒みが強いので抗ヒスタミン剤・抗アレルギー剤の内服、ステロイド剤・
免疫抑制剤・保湿剤の塗布と、日常生活のスキンケアを行います。
これに対し漢方治療では、目に見える表面の治療として皮表の症状をとる「標治」と、体質的な治療
として腎や胃腸の機能低下を補って身体の根本的な部分を強くする「本治」という二段構えの治療を
行います。
(1) 乳児期: 水気が多く湿潤した皮膚炎になり易いため、治療は水分を除去する漢方処方が中心
となります。
(2) 幼小児期: 胃腸虚弱の場合が多く、皮膚炎が全身に拡大する傾向を示 します。
消化器を丈夫にする漢方を処方します。同時に、発赤の強い皮膚炎を治療するため、
消炎効果のある漢方を処方します。
乳幼小児の多くに、痒みが強くて眠れない、夜泣きするなどの訴えがみられます。
疳が強い状態を鎮める漢方を併用します。
(3) 思春期、成人期: 皮膚症状は多彩で、発赤、湿潤、びらん痂皮、肥厚、乾燥などが混在し、
身体の部分によって様相も異なるため、皮表、身体内部ともに気血水のめぐりをよくし
消炎、水分を除去する、潤おす、内部の虚弱を補うなど、どこに異常があるかを見出し
て適応する漢方薬を選択します。
漢方治療とともに、食養生、十分な睡眠、ストレス解消、冷えない工夫、スキンケアが必要です。
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「心のケアと漢方」 水島広子(衆議院議員・精神科医)
心のケアを行う上で、漢方はとても大きな可能性を持っています。
西洋医学では、診断をしてから、治療法を決定します。
ですから、「原因がわからないため治療できない」「診断はついたけれど治療法がない」
ということも起こります。
一方、漢方では、病名ではなく「証」というものを診断します。「証」は、そのまま治療法に対応します。
いわゆる「不定愁訴」を訴える患者さんは少なくありませんが、自分は確かに不快な症状に苦しめられ
ているのに、「これは病気ではない」「治療法がない」と言われると、拒絶された感覚を持つ方もいます。
漢方なら必ずその人にあった治療法が見つかるということは、すでに心のケアの一歩になっているので
す。
漢方では、身体を細分化するのではなく、統合的に扱います。特に、心と身体を一体のものとする「心身
一如」の考え方は、ストレス関連の問題を扱う上では最適です。
西洋医学においても、心と身体の関係の研究が進んできていますが、心の病が身体症状を伴うというこ
とは珍しくありません。また、更年期障害のように、ホルモン上の変化と社会的なストレスが相乗作用し
て作られる状態もありますが、まさに漢方の得意分野です。
更年期障害でよく用いられる加味逍遥散(かみしょうようさん)は、血のめぐりを整えつつ心を落ち着かせ
る作用を持っている薬で、身体の症状をとると同時に、心のイライラや不安にも効果があります。また、
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)や柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)などのように胃の症状をとると同時に
心をすっきりさせて、ストレスと身体症状の悪循環をとってくれる薬がたくさんあります。精神科の病気で
西洋薬が必要な場合でも、漢方薬を併用すると、西洋薬の副作用を調整しながら心も落ち着かせると
いうふうに活躍します。
漢方では、個人個人の「体質」に注目し、オーダーメイドの健康を考えます。西洋医学は、外敵である病
そのものをたたくという考え方をとりますが、漢方では、むしろ体質(自然治癒力)に注目します。例えば
更年期障害であれば、「老化」という変化を打ち消すのではなく、乗り越えやすくサポートしていきます。
私たちは漢方を治療法として活用するだけでなく、その考え方から多くを学ぶことができるのではない
でしょうか。
加味逍遥散(かみしょうようさん)
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
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会場からの質問にもお応えしました。
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今回の市民講座を執り行った東洋医学会栃木県部会の面々。
講座終了後の記念撮影です。
水島さんは最初から最後まで会場におられ、お忙しいのに大変ご協力いただきました。
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ご協力いただいた方々 県部会一同、感謝いたしております。
主催:日本東洋医学会関東甲信越支部・栃木県部会
後援:宇都宮市 栃木県
下野新聞社 栃木放送 とちぎテレビ
宇都宮市医師会 栃木県医師会 栃木県保険医協会、
栃木県薬剤師会 栃木県病院薬剤師会
自治医科大学東洋医学研究会 国際医療福祉大学漢方医学研究会
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