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第1回市民公開講座 2003


挨拶する粕田会長

第一回目の一般の方々への公開講座です。
なんと、定員150人の会場へ、
144人の方々がお集まりいただきました。
ありがとうございました。

総合司会は会長の粕田晴之(左の写真)
講演・討議質疑応答の司会は(右の写真)
関口直男(比企病院皮膚科部長)
徳江章彦(自治医科大学泌尿器科教授)


司会のお二人。
向こう側が関口先生
手前が徳江先生

漢方で元気!
日本東洋医学会関東甲信越支部 
栃木県部会 会長  粕田 晴之
(国際医療福祉大学教授)

21世紀の医学教育に東洋医学が導入されることになりました。
日本東洋医学会・栃木県部会は、毎年、県部会会員対象の「学術集会」を開催して参りましたが、昨年10回の節目を迎えたのを機に、一般市民対象の「公開講座・漢方で元気」の開催を企画いたしました。

第一回目の講座は、テーマを「漢方で元気」と題しまして、身近な病気 「不眠症」・「花粉症」・「冷え症」・「頭痛」を取り上げました。4人の先生方にご専門の立場からご講演いただきます。また、あらかじめ頂きました「漢方相談」を中心に、ご質問に回答させて頂きます。

公開講座を通じ、市民の皆さまに「漢方の特徴(下記参照)」についてご理解を深めて頂き、「生活の質・QOL」の向上にお役に立つことができれば幸いと存じます。 
「漢方で元気!」、でお過ごし下さい。 

1.漢方は個人個人の体質に合わせた「証」の医学
漢方では、心身全体のバランスがとれた状態が健康であり、何らかの原因でバランスの崩れた状態が病気であると考え、どこがどうアンバランスなのかを察知するのが“診断”でバランスを回復させるのが“治療”となります。

したがって、
(1)病気の部分だけでなく個人全体を診て(診察し)、個人の体質や体調(「証」)に合わせて処方します(治療します)。そのため、同じ症状であっても、身体所見・体質の相違などによって異なった漢方製剤が処方されます(同病異治)。
(2)病邪(例えば、かぜウィールス・細菌・がん細胞)そのものを攻撃するのではなく、自然治癒力の回復を主眼としています。

2.漢方の予防医学的アプローチ「未病を治す」
  漢方には「未病」という概念があり、「黄帝内経」「傷寒雑病論」などの古医書には「上工は未病を治す」という記載があります。“上工”とは上手な医者、“未病を治す”とは「未だ病ならざるものを治す」ということで、症状が現れて病気になる前に予防したり、わずかな異常をとらえて治療するという意味の他、すでに発病していても更に進行したり他の臓器に及ぶことを防ぐ治療を行う、という意味があります。
このような考えに基づく漢方では、西洋医学的検査には表れない心身の異常をとらえて治療することができます。

3.漢方は複数の生薬の組み合わせ
  西洋薬は精製された単一の薬剤であるのに対し、漢方は何種類かの生薬の組み合わせで出来ています。一つの処方で複数の症状を改善することができます。
                         日本東洋医学会学術教育委員会編「入門漢方医学」南江堂 より抜粋

「不眠症」 手塚隆夫(一番町クリニック)

『眠れない』は日常の会話の中にもしばしば見られる言葉です。
「寝つきが悪い」「途中で目が覚める」「寝た気がしない」「朝早く目が覚める」「寝ても寝ても眠い」など、『不眠』は様々に表現されます。

『睡眠障害』は
 @不眠症 A過眠症 B概日リズム睡眠障害 C睡眠呼吸障害 Dむずむず脚症候群と周期性四肢運動障害 Eねぼけなどに分類されます。
その中でも今回は @不眠症について考えてみましょう。

『睡眠』は人間のサーカディアンリズム(概日リズム)の一部です。
人間の一日は約25時間といわれ、その中で『睡眠』と『覚醒』を規則正しく繰り返しているのです。
しかし、社会の時計は24時間ですから、夜明けの太陽光などの同調因子によって24時間のリズムに合わせて生活しているわけです。
したがって、深夜零時過ぎに寝る日を続けたり、交代勤務で夜働いていたりすると体内時計がリセット(同調)できなくなり、『睡眠障害』になりやすいと言えるでしょう。

次に、『睡眠』には一定のリズムがあることをご存じですか。
『睡眠』は約90分間で1セットの周期が繰り返されていて、その中にレム睡眠(眼球が速く動く)とノンレム睡眠(深い睡眠)に分けられる『睡眠』があります。
また、『睡眠』には別の因子もあり、体温、血糖値、睡眠物質(メラトニン)、ホルモンなども関与しています。
さらに、『睡眠』は年齢とともに変化し、乳児期には一日の大半を眠って過ごし、成長とともに睡眠時間は徐々に減少して7〜8時間になり、老化とともに深い睡眠が減少し、中途覚醒が増加します。

現代社会の生活は、睡眠のリズムを保つにはなかなか難しい環境にあり、その分余計に『不眠』の訴えも多くなるようです。
 

「花粉症」 金子達(金子耳鼻咽喉科医院)

花粉症とは一般的な言葉で、正式には草木の花粉によるアレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎を言います。
特に有名な花粉にスギがあります。
他の花粉症として、スギの後に続くヒノキやイネ科そしてキク科のブタクサなどがよく知られています。
診断はアレルギー性鼻炎の場合はくしゃみ、鼻水、鼻閉が続くことでわかります。
鼻内所見も蒼白・浮腫状などの所見があります。

治療法は西洋薬・漢方薬・局所療法薬(鼻スプレー、点鼻など)・減感作療法・レーザー等の手術療法などがあります。

一般的に完治することは漢方でも難しく、生活改善・環境改善が優先します。
しかし漢方の良いところはたくさんあります。
一般的に鼻炎に用いられる漢方は、麻黄(マオウ)成分を含みます。
特性として、即効性があることです。
そして眠気がなく西洋薬の不得意な鼻閉に対しても有効です。
しかし逆に効果時間は短く、症状のひどい時はまじめに一日3回内服が必要です。
また西洋薬との併用療法も非常に有効な手段です。

有名な処方は
小青竜湯・ショウセイリュウトウ(鼻水、くしゃみ、目かゆみ)、
葛根湯加川芎辛夷・カッコントウカセンキュウシンイ(鼻閉強く、粘性鼻汁)、
麻黄附子細辛湯・マオウブシサイシントウ(虚証、冷え性)などがあります。
症状に応じて使い分けをします。

「冷え性」 岡田圭子(獨協医大麻酔科)

「いくら洋服を重ね着しても体が冷えてしまう」
「温めても温めても手足が冷えて眠れない」
「夏にクーラーが効いている部屋にいると調子が悪くなる」。
このような「冷え」に悩む人は意外に多いと思われます。 

西洋医学ではあまり取りざたされることのない「冷え」ですが、実は漢方薬の処方ではとても重要な症状の一つです。
そして、「冷え症」の治療は漢方薬の得意分野ともいえます。

 ひとことに「冷え症」といっても、漢方の考え方によると様々な原因があります。
@ 新陳代謝や胃腸機能の低下による全身の冷え(気:体のエネルギーの不足
A末梢の血液循環が悪くなるための冷え(血:血液・栄養の不足や滞り)、
A むくみを伴う冷え(水:体の水分の滞り)、というように色々なパターンがあり、
中には原因が複数ある場合もあります。

さらに個人の体力や体質により処方が異なります。
同じ「冷え症」でも十人十色のきめこまかい処方を行なうのが漢方の特徴なので、自分に合った漢方薬を選ぶことが大切です。

「頭 痛」 村松慎一(自治医大神経内科)

頭痛の原因には重大な病気もあるので注意が必要ですが、多いのは特に生命の危険のない緊張型頭痛や片頭痛です。

片頭痛は、頭の片側が脈にあわせてズキンズキンと痛み、しばしば嘔吐が見られます。
痛みは相当強く、音や光の刺激でも増悪するので患者さんは部屋を暗くしてじっと痛みに耐えています。
最近、セロトニン受容体に作用する西洋薬が使われるようになり、ある程度有効です。漢方では、五苓散と呉茱萸湯が代表的な処方です。
多くの場合五苓散をはじめに使用しますが、やや体力がなく冷え性傾向の人には呉茱萸湯を使います。
普段から頭痛を誘発しやすい食物を避ける、睡眠不足にならないようにするなどの生活の改善を行うことが大切で、その補助として柴胡剤などの漢方薬を使用します。

緊張型頭痛は、頭全体が圧迫されるような痛みで、ストレスで増悪します。
後頭部の筋肉の緊張や肩こりのある場合が多く見られます。
体力があり肩こりのある人には葛根湯、
イライラして落ち着かない人には柴胡加竜骨牡蠣湯などが、
めまいがあるような人には、釣藤散や半夏白朮天麻湯などを使用します。

会場からの質問もたくさんあり、
時間いっぱいまで、質疑応答が行われました。

司会の先生、講演者の皆様、会場を設定された幹事の先生方、ありがとうございました。
全員、ボランティアで取り組みました。
HP係りの私も、大変充実した気分でした。

    ご協力いただいた方々 県部会一同、感謝いたしております。
 宇都宮市・下野新聞社・栃木放送・とちぎテレビ
 宇都宮市医師会・栃木県医師会・栃木県保険医協会、 
 栃木県薬剤師会・栃木県病院薬剤師会
 自治医科大学東洋医学研究会・獨協医科大学東洋医学研究会 
 後援名義使用をご承諾いただきました。

 宇都宮市(保健福祉部健康課) 
 市民へのパンフレット配布(800+1,000枚)にご協力いただきました。

 下野新聞社(事業部、編集部)
 1月29日(水)13ページ健康紙面に「市民公開講座の案内」が掲載されました。

 栃木放送
 「市民公開講座の案内」がアナウンスされました。

 宇都宮医師会・栃木県保険医協会
 助成金を頂きました。

 株式会社ツムラ、カネボウ薬品株式会社、小太郎漢方製薬株式会社、大杉製薬株式会社、
 三和薬品株式会社
 寄付、広告、労務提供などご協力いただきました。