ネコの話           ほーむ        igakukaibun2.gif (5024 バイト)

皆様のおかげをもちまして、アクセス数も2000を越えました。

これも、ひとえに、御贔屓筋の御好意と、何度もお訪ね下さる奇特なお方のおかげです。

そういうわけで、何か記念になるものを、と考えまして

月刊保団連」(1995.12 No.492)に掲載したものをアップすることにしました。

『本日休診』「私と猫、四題」を加筆訂正いたしました。

 『本日休診』は、たいそう高尚なご趣味をお持ちのドクターが自分の素晴らしい余技を紹介しているコーナーです。
 音楽演奏やら、観劇やら、絵画やら・・・。
  そういうコーナーに、私は、なんとまあ、猫、それも野良猫の話を書いてしまいました。

そんなんで良ければ、どうぞご覧下さい。

『昔、こんな猫がいました』

 以前はスキーが趣味でした。

 でも、今では若い娘はつきあってもくれず、
さえないおじさん同志で「今日、行く?」
「寒いから行かない」という体たらくとなり、
とてもご紹介できません。

 そこで、猫の話を書くことにします。

   下は猫魔名物ネコマンマ      右は猫魔スキー場
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  ね、おじさんでしょう。 
  三人ともサングラスで魅力を隠してます。
  一人はひげまで動員して美顔を隠そうと無駄な努力をしています。
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 ずいぶん前のことですが、裏庭で子猫のなく声がしました。

 尻尾の曲がった黒っぽい小さな猫でした。

 飼い猫の経験があるらしく人間になれていて、皿に入れた牛乳を飲みました。

 はじめのうちは、縁の下にダンボール箱で家を作ってやり、外で飼うことにしました。

 名前をノラとつけました。

 「野良猫だからノラなんて安易なつけ方」という意見が多かったのですが、教養の無い人にイプセンの

『人形の家』のことなど話しても仕方ないので、野良猫のノラということにしておきました。

 何週間かたった朝、箱の奥に白と黒のもっとちっちゃな猫が一緒にいました。

 どこかの野良猫の子供であったらしく、人の顔を見ると縁の下の奥深く逃げてしまいました。

 白と黒のブチなのでブチと名づけました。(やはり安易な付け方でしょうか)

 ブチは筋金入りの野良猫でした。

 家の中で飼うようになってからも、いったん外へ出るとなかなか中へ入ってきませんでした。
  

 
 ノラが下痢をしました。

 食欲もなく、痩せてきました。なんだか咳もしているみたいです。

 (これは肺炎に違いない)

 抗生物質を注射することにしました。

 (たしか、動物の注射は背中にするのが正しい方法だったような気がする)

 爪で引っ掻かれそうで、ボール紙の中央に丸い穴をあけた盾を作って、背中に注射をしました。

 かなり痛かったらしく悲鳴をあげて廊下を走りまわりました。

 それ以来、背中の真中の毛がアンテナみたいに立ってしまいました。

 結局治らず、獣医さんに連れていきました。

 検便をすることになり、顕微鏡をのぞきながら

「ほら、これを見てください。条虫の卵があるでしょう」

「ど、どれでしょうか」
 

「先生は寄生虫の卵を見たことがないのですか」

「寄生虫の講義は腹痛がしまして……」

「とにかく駆虫剤を処方しますから、飲ませてください。それから、注射は背中にしてはだめですよ」

 そんなわけでノラは丈夫になりましたが、家の者の私への信頼度が幾分減少したように思われました。

 しかし、ノラの私への信頼はどういうわけか絶大となり(ときどき、目の前でこれ見よがしに背中の『アンテナ』をなめたりひっぱたりするのが気になりますが)、名前を呼ぶと一目散に走ってきます。

 まるで犬のようです。

 メスなのにヤンチャ坊主みたいで、ふすまを手で開けてまっすぐこちらに歩いてきて、私が新聞を読んでいても躊躇することなく、腕の間から膝と新聞の上に乗ってきて、のどを鳴らして平気です。

  

 ノラ
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 ブチも同じメス猫ですが、正反対の性格です。

 まったく猫らしい猫で、ノラの後ろから静かについてきて、少し離れたところに行儀よく座っています。

 ノラがいないと、いつのまにか斜め後ろにくっつくように座っていて、振り向いた私と目があうと、かすれ声で小さく鳴くので、新聞をどけてやると、遠慮がちに膝の上にうずくまります。

 はじめは小さな猫でしたが、いつのまにかノラより一回りも大きくなっていました。

 それでもノラの後をおって歩いていました。

 まるで妹みたいに。
   

 ブチ
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 ノラは交通事故に二度遭いました。

 最初の大腿骨骨折は自力で回復。雀や鼠を、その後も平気で捕まえました。

 二度目の左顔面の打撲と変形も、いつのまにか回復しました。

 このときはもう死んだと思い、箱の中に入れておき、翌朝埋めようとしたら生き返ったのです。

 ブチも交通事故に一度遭いました。

 このときは一時行方不明になり、五日ほどたって帰ってきたときは腰椎を骨折していました。

 上半身と下半身の軸がずれてしまい、回復してからは、座ると何とも艶っぽい姿となりました。

 

 その二匹とも、もういません。

 三度目と、二度目の交通事故で今度こそ死んでしまいました。

 二匹とも夕暮れで

 二匹とも生きかえりそうで

 箱に入れて

 夜明けまでそのままにしておきました。