あと15分で3時か。
もう、片付けてもいいぜ。
どうせ、客は俺だけなんだから。
ああ、その前に俺の話を聞いてくれ。
おごるからさ。
それから『俺の彼女』にも一杯作ってやってくれ。
まあ、ここに居るわけじゃないんだけど。
俺はちっとも悪いことしたつもりはないんだぜ。
そりゃ、ネコなで声はしたさ。
この地声じゃ、誰もドアは開けてくれやしねえや。
へへ、足も白く染めたがね。
だけどさ、餌なんだぜ。
俺にしてみれば、あれは食事っていうわけさ。
子やぎの丸呑みってのはうまいしねえ。
ま、へまはやったがね。
俺は今、へこんでるのさ。
いつものように曲をかけてくれ。
泣けるやつがいいな。
餌の母親が『あいつ』だったとは俺も気がつかなかったさ。
『どじ』と言やあ『どじ』だがね。
あいつと俺はいい仲だったんだ。
『俺の彼女』ってわけだ。
ほれてたってことさ。
言っとくけどあんたにゃ『守秘義務』があるんだぜ。
職業上知り得た情報は漏らしちゃいけねえのさ。
『俺の彼女』に一杯作ってやってくれ。
まあ、ここに居るわけじゃないんだけど。
『女は魔物』だね。
いい表現だろ。俺は詩人って言われてるんだ。
時計の中にもう一匹隠れていたのを見逃しちまってさ。
おかげで俺だってことがすぐばれちまったのさ。
店、閉める時間だろ。
わかってるんだ。
ありがとうよ。話を聞いてくれてさ。
しかし、見てくれよ、この腹。
石ころだらけなのさ。
寝ている隙に子やぎを取り出して、代わりに詰め込みやがった。
そうさ、女は魔物なんだ。
歩くたんびにごろごろ音がして、うるさくってしようがねえや。
井戸じゃおぼれそうになるし。
体外衝撃波結石破砕術っていうやつを予約してるんだがね。
知ってるだろ。尿管結石なんか手術しないで粉砕しちゃうやつ。
『俺の彼女』に一杯作ってやってくれ。
まあ、ここに居るわけじゃないんだけど。
あ、そう、最後にもう一杯作ってくれ。
この街ともおさらばなんでね。
予約した病院、すごく遠いんだ。
おしまい(今回はオチはなし。すでに井戸に落ちた)
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