名作どうわ選 

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2004/9/14

 牛若丸 」(童謡)です。


  文部省唱歌。今は文部科学省唱歌というのでしょうか?
   母親の常盤御前は小さい子を三人つれて逃げ出します。
   一番小さい子が牛若です。まだ赤ん坊でした。
   父である源義朝は討たれ、常盤御前は平清盛の愛妾となります。
   牛若は、僧侶にされるべくお寺に預けられます。
   しかし、牛若はお経ではなく、夜な夜な鞍馬の烏天狗に武芸を習っていたわけです。

   そして、ある夜、牛若丸は弁慶と遭遇します。
   弁慶は千本の武器を奪うという誓いを立てていたらしいのです。
   さて、二人は・・・ということで、歌詞を書いておきます。作者は不詳ということです。

メロディーはこちら。(おやじの古い唄さま)

          京の五条の橋の上、大のおとこの弁慶は
            長いナギナタふりあげて、牛若めがけて切りかかる。

          牛若丸は飛びのいて、持った扇を投げつけて、
            来い来い来いと欄干の上へあがって手をたたく。

          前やうしろやみぎひだり、ここと思えばまたあちら、
            つばめのようなはやわざに、鬼の弁慶あやまった。

 皆さま、アテネオリンピックはいかがでしたか?
 巷間、刈谷アナウンサーが実況しました男子体操団体が評判になっております。
 私は、最近、古い録画ビデオを発見いたしました。
 牛若丸と弁慶の試合でございます。
 見直しまして、とても元気が出ましたので、宝物として保存したいと考えています。
 これも、刈谷アナウンサーと小西解説者のコンビです。

 
牛若丸    京都公共放送制作 実況・刈谷アナウンサー

橋の向こうから登場してくるのは、涼しい目をした牛若丸。
腰に美しい太刀を帯び、横笛を吹きながら歩いてきます。
履いているのは高歯の下駄。
帯に扇をさしています。

こちら側からは、2メートル11センチ132キロの巨漢の弁慶。
太い眉毛とたわしのようなもみ上げが白い頭巾から見えています。
得意技はナギナタ。
風車のように振り回す回転技。
途中で三回のひねりを入れます。

母の懐に抱かれて戦場を脱出した牛若丸。
そのときはまだ乳飲み子。
18歳になった今、五条大会に凛々しく出場してきました。

解説の小西さん、牛若丸に勝つチャンスはありますでしょうか。
「牛若丸は、一人で戦うんじゃないのです。
 今まで、源氏一門が一丸となって、練習に練習を重ねてきました。
 練習量は誰にも負けません。
 きっと、勝ってくれると信じています」


両者橋の中央で向かい合いました。
平家の天下になって十余年、
源氏一族の期待を一身に集めて修行した
その成果が今試されようとしています。
しかし、相手は999の金メダルを取った最強の選手権者、武蔵坊弁慶。
こえられるか、このハードル。

弁慶がすでにナギナタを構えています。
今、試合開始のホイッスルがなりました。
主審はコスタリカのアンヘル・ロドリゲスさんです。
弁慶の攻撃から始まります。
弁慶、水平にナギナタを振り回しました。
あ、ここでホイッスル。
審判のロドリゲスさんの腕から血が流れています。
弁慶にイエローカードが出されました。
小西さん、弁慶が審判を傷つけてしまったようですね。
「ひねりを入れることを弁慶はあらかじめ審判に申告していたのですね。
 ひねるとナギナタの到達距離が短くなりますからね。
 牛若丸のプレッシャーで弁慶はひねり技を省いてしまったのですね。
 しかし、審判ももう少し離れていなくてはいけません。」

弁慶、よもやの大失敗です。
さすがの弁慶も緊張していたようです。
ロドリゲスさんの手当ても終わりました。
さあ、点数が出ます。
9.242。弁慶にしては低い点数です。
渋い表情の武蔵坊弁慶。
「審判に怪我を負わせてしまったからしかたないです。」

さあ、今度は牛若丸の攻撃です。
牛若丸は鏡を見ながら練習してきたそうですね。
「そうです。
 牛若丸は、どこから見ても美しいといわれる完璧の技を目指してきました。
 牛若丸の演技は世界一です。」


今、刀をするすると抜きました。
世界に誇る美しい牛若丸の身のこなし。
150センチ40キロの小さい体。
その身の軽さを利用した技。
天狗飛び切りの術。
「天狗飛び切りの術は、最初の攻撃には使いません。
 体力が消耗しますので、最初は、回転だけの安全な技でいくと思います。」



さあ、牛若。跳び上がりました。
弁慶の頭上をはるかに越えて太刀を一閃しました。
弁慶が体を低くしてよけます。
下駄が橋の板に当たる音が響きました。
主審のホイッスルが鳴りました。
満員の観衆がどよめいています。
牛若、一回目の演技終了です。

小西さん、今二回転半ひねりでしたね。
「本来は、三回転するはずでしたが、二回転目に膝が多少割れましたね。
 三回転すると転倒する危険がありました。
 失敗を最小限に留めるため半ひねりを急遽加えました。
 落ち着いています。」

あ、9.464。
観衆からもっと高い点数じゃないかとブーイングが起きています。
「審判は、良く見ています。膝の乱れ、回転を減らしたこと、
 点数は、これ以上でもなければ、以下でもありません。
 妥当な点数です。」

しかし、わずかに牛若丸リード。
点差は0.222。

さあ、弁慶の攻撃です。
最後の攻撃です。
ひねりを入れたナギナタ水平三回ひねりのE難度の技を決められるか。
頭上でナギナタがうなりを上げて回っています。
回る、回る、回る、回る・・・.
水平に回転して牛若に迫る!

ひねりも加わってます。
足を狙うとみせかけて頭を狙い、さらに胴、また頭とひねりました。
牛若、身を低くしてかろうじてかわしました。
ロドリゲスさんの笛が鳴りました。
牛若の髪の毛がナギナタの風圧で揺れています。
さすがにベテランの武蔵。
最初の失敗から完全に立ち直りました。
さあ、採点が待たれます。

9.886!
高い点数が出ました!
武蔵坊弁慶、見事なナギナタでした。
点数を伸ばしました。合計19.128!
しかし、これで・・・牛若丸、9.664以上出せば、
・・・勝てます。
「今までやってきたことを全部出し切れば勝てます。」
牛若丸が、牛若丸であることを証明すれば、
・・・牛若丸、勝てます。

牛若丸、大きく後方へ下がりました。
先ほどより長い助走距離をとります。
勢いをつけて、高く大きく飛び跳ねるようです。
「いよいよ、天狗飛び切りの術を出します。」

世界に誇るオールラウンダー牛若。
お寺に預けられたときには何度もくじけそうになった牛若。
今、源氏のエースとして大きく成長してきました。
技は天狗飛び切りの術。

さあ、走り出しました。

跳ぶ!
弁慶、ナギナタでよける!
あ、扇が弁慶の額に当たりました!!

右手で刀を振り上げると同時に右に回転し空中で左手で扇を投げました。
そして欄干を蹴り上げて、着地に向かいます。
さあ、着地!
伸身の・・・
新月面が描く放物線は・・・
栄光への・・・
五条の橋だ!!


勝った!!
「勝った」
勝ちました!
まだ点数は出ませんが、間違いありません。
牛若丸勝ちました!
「よくやった・・・」

弁慶も苦笑い。

点数が出ました!!
9.989!!
9.989、高い点数が出ました!

0.325の大差をつけての勝利です。
牛若丸、金メダル!!
弁慶の千個めの金メダル奪取の野望を打ち砕きました!

「う・う」

小西さん、どうぞ泣いてください。
小西さんの目から、大粒の涙がこぼれました。

さあ、表彰式です。
今、中央の一番高い所に牛若丸が上りました。
会場は大歓声に包まれています。
ああ、弁慶も笑ってますねぇ。
小西さん、牛若丸に対する声援は大きいですね。
「判官びいきでしょう。」

おしまい。

五輪発祥の地といえばアテネ。

今回のオリンピック中継は、久しぶりに堪能致しました。
 
牛若丸は、別の作家が作る予定だったようですが、オリンピック放送の
 
ネタになってしまいました。
 
安易かしら? まあ、久しぶりということで、ごかんべんを。
 
そうそう、弁慶は牛若丸の家来になりました。めでたしめでたし。
 
と、書くのを忘れました。
 
それから、次の大会では、牛若丸は義経となり、舟を八つも飛んだそうです。
 
あ、知ってる? すいません。
                             藪野菜加太