名作どうわ選

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 2003/2/10 up  20 改定

 「マッチ売りの少女」です。

  映画の台本だということです。
  そこには、以下のようなタイトルバックについても書かれています。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

冒頭に流れる音楽です。▲印をクリックして下さい。
ピエロのHP様から頂きました聖歌472番「人生の海の嵐に」


 
 聖歌472番の音楽とともに映画が始まる。
  
以下、タイトルの画面はソフトフォーカスで撮影し、
  
セピア色のモノトーンの画面で統一。
  

 
 雪の中、少女がマッチを売っている。
  道路の端にたたずむ少女。
  カメラが遠ざかり、上へ移動して遠景で撮影。
  
スクリーンは道路と家々の屋根、降り落ちる雪。
  俯瞰のまま、画面の隅に馬車が現れ、同時に、
   少女が道の端から足を一歩踏み出そうとしてストップ。
  その映像を背景にタイトルが映し出される。

マッチ売りの少女

  少女は馬車にひかれそうになり、片方の靴が脱げる。
  男の子が靴を持っていってしまう。
  追いかけようとしてあきらめる少女の横顔。
  走り去る男の子の後姿と見送る女の子の背中でストップ。
  そのまま出演者のクレジットが次々と現れる。

寅  渥美清(?)

和尚 笠置衆(?)

・・・・・・・・

  少女が家の壁のそばにしゃがみこんでマッチをする。
  クリスマスツリーやご馳走がぼんやりと現れる。
  さらにマッチをする。
  小さな炎を包む指のアップ。
  炎が小さな手を通して、そこだけ明るく見える。
  炎が揺らめいてストップ。
  美術・音楽・製作者などのクレジットが次々と現れる。

美術  ・・・・・・

音楽  ・・・・・・

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  雪がやみ、空は満天の星。
  監督の名前が現れる。

監督 薮野菜加太

  天使に手を引かれて星空へと登っていく少女。
 

KAIBUN映画

  という製作映画会社名が映される。
*作者注 BGMが終わってから下の画面に進んでください。
 映画ではBGMが終了してから本編がはじまるのです。

 (一転して鮮やかなカラーの画面)・・・*BGM終わってない方はで停止すること。
 ぬけるような青空。
 大きな川の土手。
 袖を通さずに上着を両肩にはおって、寅が気持ちよさそうに土手の上に座っている。

 向こうから舟が近づく。
 袈裟を着ている老人が櫓を漕いでいる。

寅 「お〜い、和尚さ〜ん! あけましておめでとぉ〜!
   本年も、きょうこうばんたんよろしくおひきまわしの程、お願い致しま〜す!」

和尚 「お〜、とら〜! おめでとう〜! いま、そっちに、着けるぞ〜!」

 小さい女の子が乗っている。
 女の子は真剣な表情で舟の縁をつかんで川面を見ている。
 そのつかんでいる手のアップ。
 指先がすすけている。

 寅のそばに舟がつき、女の子が降りる。
 降りる足のアップ。
 片方の足は裸足。
 もう片方は、ぶかぶかの靴。

寅 「住職! のん気な顔してねぇで探してやんな。
   そこら辺に落っこってやしねぇかい? もう片っ方の靴。
   嬢ちゃん、こわかったろう?
   この坊さん、舟を漕ぐのが下手だからねぇ。
   住職! 途中で川へ落っことしちゃったんじゃねぇのかい?」

和尚 「あ〜・・・そんなことは、ありゃあせん。
    この子は・・・はじめから、片方しか履いとりゃせん」

寅 「本当かい? 坊主は嘘ばっかりつくからなぁ」

 女の子の全身のアップ。
 そまつな身なり。(継ぎあてだらけの長めのスカートはところどころほころびている)

寅 「(煤けた手を見て)結構毛だらけ猫灰だらけ、あなたのオテテは煤だらけってね。
   嬢ちゃん、火遊びは大人になってからにしましょうね」

和尚 「(すこしだけ気色ばんで)寅や、・・・この手は、天使が握った手じゃ。
    そんな、ばちあたりは言わんほうが・・・ええ」

寅 「あれ?? 和尚さんはイエス様に鞍替えしたの??」

和尚 「寅、お前はしらんのか?・・・まあ、お前の頭では、無理も・・・ない。
   正月で、皆、出払っておるでな。
   今年は、お釈迦様系が、正月の当番にあたってしまっておる。
   そこで、こうして、わしも元日から舟頭をつとめているという・・・わけでな」

寅 「それじゃ、なにかい? キリストもアラーもアマテラスも留守なの??
   いいね〜、いいね〜、偉い人はいい! 労働者諸君は、こうやって盆も正月も
   ないってやつだ」

和尚 「何をわからんことを言っておる。
   ・・・来年はユダヤ教が当番じゃから、来年の正月はゆっくり・・・やすめる」

寅 「住職! 来年のことをいうと鬼が笑うって、しらねえな?」

和尚 「寅、ここは天国じゃぞ。鬼など・・・いるものか。 くだらんことを言ってないで、
   この女の子、これから先は、お前が連れて行って・・・くれ」

寅 「和尚さんも一緒に来てくれたってバチはあたらねぇんじゃないの?」

和尚 「川の真ん中で、携帯が鳴ってな。・・・向こう岸で待ってる人が・・・おる。
   すぐに、もどらにゃ・・・いかん」

寅 「嬢ちゃん、それじゃ、おじちゃんと一緒にいきましょうね。
   
(横目で和尚をちらっと見て)薄情な人はほっときましょうね。
   ところで、どこへ連れて行ったらいいの? 和尚さん」

和尚 「その子の・・・おばあさんの所じゃよ」

寅 「ほいきた、合点承知の助! おばあさんの所といやぁ、よく知ってるよ。
   良い所だ、あそこはねぇ。 じゃ、なにかい?嬢ちゃんは、おばあさんの孫なの?
   たにしたもんだよいなごのしょんべん、見上げたもんだよやねやのふんどし」

和尚 「寅、そのかばんに、売り物の靴、ありゃぁ・・・せんかの?
   あったら、その子に履かしてやっては・・・くれんか?
   あとで、代金は払ってやるから」

寅 「あ、そうだ、靴ね。あるある。
   嬢ちゃん、靴のサイズはいくつ? へ? インチキ? インチ??
   ふ〜ん、ま、見たとこ・・・・・・これでどうだい?
   ほら、ほら、ほら、ぴったんこ。
   長年商売していると、見る目がちがうねぇ。
   見た瞬間、あ、これは七文三分って、すぐわかったね。
   どう、赤くってかわいいねえ。
   ほら、和尚! 見てくんねぇな。 にあうだろぉ? いい靴だからねぇ。
   なにしろ、英国製だから。 ほら、このマーク。 本物の英語だ。 どうした!
   え〜、こっちの、きたないでかい靴は、捨てちゃおうか? どうせ半端だし」

和尚 「こらこら、寅、捨てちゃ駄目だ。その靴は、おばあさんの形見・・・なんじゃ。
   じゃ、寅、よろしく・・・たのむ」

 舟が引き返す。
 土手の上で見送る二人の後姿。
 女の子は大きな靴をぶら下げて、もう片方の手で寅の上着の端を握っている。
 傍らの土手には看板が立っていて 『三途の川渡し舟到着場』 と書いてある。

寅 「あ〜、いい天気だ。
  お嬢ちゃんを見てると、妹の 『さくら』 のチッチャイ頃を思い出すなぁ。
  ♪ このみち〜は〜 いつかきたみ〜ち〜 
  知らない? あ、そぉ
  おじちゃんは、古いか? ん? あ〜あ〜そおだよ〜お〜 ♪」

 山茶花の生垣がある。

寅 「山茶花かぁ、おいちゃんを思い出すなぁ。
   この生垣を曲がると、嬢ちゃんのおばあさんちだ」

女の子 「あ、おばあちゃんだ〜」

 おばあちゃんが、にこにこと微笑んで立っている。
 寅に向かって深々とお辞儀をしてから、女の子に向かって両手をひろげる。
 女の子がおばあちゃんのふところに飛び込むように駆け寄る。

 寅が屋根の上をまぶしそうに眺める。

 そこには、黄色いハンカチがたくさんたなびいている。

 
渥美清演じる寅さん。
絵亭さまのHPから。(ATNET)
 
青影さんのリクエストで、寅さんにお出ましを願いました。
寅さんは、テレビの時から見てましたが、最初は、もっと
悪い人だったみたいな印象を持っています。
さくらが泣かされたりしてね。
テレビでは、山茶花究がおいちゃん役じゃなかったでした
っけ? ちがったかな??
 
渥美清は、「夢であいましょう」で黒柳徹子との掛け合いが
絶妙でした。
あと、黄色いハンカチの警察官役も良かったですね。
 
今回はストレートですね。
ノーアウト満塁で、変化球は使う余裕が無かったもので。
『マッチ売りの少女』
大晦日の夜の出来事なんです。
クリスマスイブと勘違いなさっている方が多いですが。
 
                            藪野菜加太