名作どうわ選

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 2002/3/14

 「雪女」です。

  これは某省の極秘メモです。
  アパートの一室での会話だということです。
  会話の主は有名な方らしいですが、確証がございませんし、
  メモを作成した者の主観がおおいに入っておりますので、

  そこら辺の事情をご賢察の上、ご想像してお読みください。
  

  雪女
                 会話の主:特に名を秘す 
 
私はあなたの奥さんですよ。ですから正直に答えてください。
いいですか、あなたはさっき「雪女を見た」と言いましたね?

確認しておきますが、さっき雪が降ってきた旨をあなたが話しかけてきたときに、私はアジノヒラキを焼いておりまして、ご承知でしょうが、炭の火加減が難しいということを、まず、お伝えしておかなければな、と思っております。

答えになっていませんよ。答えてください。
私は聞こえましたよ。どうですか。イエスかノーか?

雪女を見た…と言ったのでしょうかねえ、私の言ったことがあなにどう聞こえたのか、もし、気に触ったのなら私の不徳のいたすところと深く反省しているところです。

あなた、三年前の大雪の夜、山小屋に泊まったことがありましたね?

三年前ですか。ちょっと覚えておりません、というか記憶に無い、ということでございます。

何をとぼけておられるんですか。大昔のことと違いますよ。
たった三年前のことじゃないですか。ど忘れ禁止法を作ってもらいたいくらいですよ、本当に。
えー、ここに警察の調書があります。部外秘とハンコが押されています。
いいですか、三年前の一月十四日深夜に、甚七さんという人が凍死したことが書かれていて、発見者にあなたの名前が記載されていますよ

え〜、お答えいたします。…たしか…それは甚七じいさんとイノシシ狩りに行った時のことだったと思います。イノシシ一頭とうさぎを三羽獲れたと記憶しております。

よくおぼえているじゃないですか。

ちょっと待ってください、私はですね、あなたが思い出せというから、一生懸命に思い出して……

質問に答えるだけにしてください!
甚七さんが死ぬところを見ていましたね?

私が目を覚ましたときには、もう死んでいた、ということが正確なところだと思います。

おかしいですねえ。だったらどうして甚七さんが凍死だとわかるんですか。首しめられて死んだのかもしれないじゃないですか。

ちょっと待ってください! いやしくも私はあなたの夫ですよ。まあ、古いタイプの夫かもしれませんが。それでも夫婦はよく助け合うということをしないと、今の世の中はよくならないと思います。それじゃ、なんですか、私が首をしめたとでも言うんですか!?

質問は私がしてるんです。死因はあやしいんとちゃいますか?

全く怪しくありません! 甚七氏が凍っていたということは、そのとき立ちあった警察官も認めていたのを憶えております。

その警察の調書によりますと、口と鼻だけが凍っていたと書かれてあります。口と鼻だけに冷たい空気があたったのです。
おかしいとは思いませんか?
あなたと甚七さんが囲炉裏をはさんで寝ていて、甚七さんの口と鼻だけが凍ってたんですよ。何があったんですか。お答えください。

いや、これはですね。人の生命にかかわる話でですね、いやしくも人道的見地から、お話することはですね、できません。

何を言ってるんですか! さっき、雪女って言ったじゃないですか!
雪女が甚七さんに冷たい息を吹き込んで凍らせたのを、あなたは見てるんじゃないですか?

これはですね、私の…この…命といいますか…その夜のことをお話しすると、私の生命が奪われてしまうということを明確にしておきます。

誰にですか?

雪女に。

ほう…じゃ、私の顔をよく見てください。

ピン・ポーン

ごめんくださ〜い!

は〜い、どなた?

隣の203号室の者です。
夫婦喧嘩はもう少し小さい声でお願いします。
テレビで証人喚問を見ているのに、やりとりがさっぱり聞こえません。

 

おしまい。

官僚は誤らず、というのが原則だそうですが、私の経験では、おおいに誤っております。
たぶん、官僚は謝らず、の間違いだと思います。
これからは、何事も透明にしなくてはなりません。
医療の問題もそうです。
医師会もおやしげな族議員になんか頼らずに、正論を堂々と展開すべきです。
私なんか、医療保険の根本的な改正を邪魔しようなんて、すこしも考えていません。
また、代議士は、地元からは立候補できないという制度をつくるべきです。
毎回くじ引きで立候補する選挙区をきめるんです。
質の悪い政治家は駆逐されるでしょう。
                            藪野菜加太