名作どうわ選

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 2001/12/16

 「舌きり雀」です。
    これは夢物語である。
    夢のような物語でなく、私が見た夢の中の物語である。
    それは古いテレビドラマで、そう、弁護士が登場するドラマ。
    タイトルは『ペリー・メイスン』
    こんな昔のドラマの夢を見るなんて、私も歳をとったものである。
    ・・・・・・それにしても長い夢でした。
         
    同じ頃、NHK教育テレビでは字幕スーパーで弁護士プレストンという硬派の番組も
    ありました。(覚えている人は少ないでしょう?)

         

  舌きりすずめ
    出演 弁護士;ペリー・メイスン、私設秘書;デラ・ストリート 
       私立探偵;ポール・ドレイク、検察官;ハミルトン・バーガー
       裁判官、検察側証人、弁護側証人
(場面は法廷)

バーガー検事
 舌の傷は重傷で、一歩間違えれば死ぬところだった、というわけですね。
 では、反対尋問、どうぞ、メイスン君。

 
メイスン弁護士
 
証人、あなたの医師としての経験は?
 
バーガー
 異議あり。裁判長、事件と関係ありません。
 
裁判長
 
異議を認めます。弁護側は質問を変えてください。
 
メイスン
 
証人は先ほど舌の傷は重傷だと証言されましたが、傷の大きさはいかがでし
 たか? 具体的に述べて下さい。

 
証人(検察側証人)
 
1ミリくらいでした。
 
メイスン
 
ほう、1ミリくらいですか。正確ですか。
 
証人(検察側証人)
 
切られた先を持ってきましたのでメジャーで測定しました。
 
メイスン
 
あなたはそれを縫い合わせなかったわけですね。
 
証人(検察側証人)
 
縫いませんでした。
 
メイスン
 
縫い合わせる技術がなかったということですね。
 
証人(検察側証人)
 
そんなもの誰だって縫えませんよ! 小ちゃくて。
 
メイスン
(陪審員に向かって)
舌の先の傷は小ちゃい、というわけですね。
(証人が反論しようと口を開けるのをさえぎるように)
終わります。
 
裁判長
 
では、15分休廷します。
 
(場面は控え室)
 
メイスン
 
デラ、証人はまだ見つからないのかね。
 
デラ
 
ペリー、大丈夫よ。ポールは頼りになるわ。ほら、来たようよ。
 
ポール
 
ペリーごめん。遅くなった。
 
メイスン
 
で、証人は見つかったのかね。
 
ポール
 
ああ、バッチリさ。ちょいと脅かしたのさ。
 骨がばらばらになってもいいのかねってね。

 
メイスン
 
おいおい、お手柔らかに頼むよ。
 
(場面は法廷に戻る)
 
メイスン
 
裁判長、ここで新たな証人を喚問したいと思います。
 
裁判長
 
許可します。
 
(証人が証言席につく)
 
メイスン
 
あなたの名前と職業をどうぞ。
 
証人(弁護側証人)
 
からかさおばけと申します。職業はお化けです。
 
バーガー
 
裁判長証人はべろを出したままです。法廷を侮辱しています。
 
メイスン
 
裁判長、証人の舌は長いのです。お許しを願います。
 
裁判長
 
証言を許しますが、証人はなるべく舌は折りたたんでおくように。
 
証人(弁護側証人)
 
からかさには折りたたみ式というのはないんです。コウモリじゃないので。
 
メイスン
 
あなたは誰かからあることを頼まれたそうですが。
 
証人(弁護側証人)
 
いじわるばあさんを痛めつけてくれと頼まれました。
 
メイスン
 
頼んだのは誰でしょうか。この法廷にいれば指差してください。
 
証人(弁護側証人)
 
おります。(指さして)あそこです。
 
裁判長
 
ハミルトン検事、君が・・・
 
メイスン
(うろたえる検事を見ながら)
バーガー検事ではありません。
 
彼の肩の上にとまっている雀を指さしたのです。
 
では、どのような状況でたのまれたのでしょうか。
  
バーガー
 
裁判長、異議あり。本件に関係ありません。
 

裁判長
 
却下します。証人は答えなさい。
 
証人(弁護側証人)
 
私がツイタテのかげで聞いていると、雀のやつは、『二つのツヅラのうち、
 おみやげはどっちがいい』と、ばあさんに聞いてました。
 ばあさんは『腰が悪いので軽いほうがいい』なんて言いながら、ちょっと
 持ってみて大きいほうを選びました。
 

メイスン
 
大きいほうが軽かったのですか?
 
証人(弁護側証人)
 
何も入ってませんでしたからね。それで、ばあさんは帰っていったわけです
 が、私らは雀によばれて・・・

 
メイスン
 
『私ら』というとあなただけではないのですね。ほかに誰が一緒でしたか?
 
人(弁護側証人)
 
『ノッペラボー』と『ろくろっ首』と『三つ目小僧』でした。
 
メイスン
 
そこで、雀から『ばあさんをいためつけろ』と言われたのですね?
 
証人(弁護側証人)
 そうです。
 

メイスン
 
その前の日に、おじいさんは小さいほうを持って帰りましたが、そのときの
 様子も見ていましたか?

 
証人(弁護側証人)
 
見ていました。じいさんはちょっと持ってみて、重いほうを選びました。
 
メイスン
 
すると、この一件でおばあさんはよくばりという評判がたっていますが、
 ちがうんですね。

 
バーガー
 
裁判長、意義あり! 証人に推測を求めています。
 
裁判長
 
異議を認めます。メイスン君、質問を変えてください。
 
メイスン
 
証人はどうやっておばあさんを痛めつけたのですか?
 
証人(弁護側証人)
 
峠で一休みしたときに、隙を見つけてつづらに入りました。立ち上がるとき
 急にツヅラが重くなったので、ばあさんはギックリ腰になりました。
 それから蓋を開けたので、私らが一斉に飛び出しますと、しりもちをつきま
 して、尾低骨を骨折しました。大成功でした。

 
メイスン
 
裁判長、本件は雀の訴えにより、おばあさんが動物虐待法により起訴されて
 いるのですが、実際は、雀の方が傷害教唆の罪で起訴されるべき案件であり
 ます。
 検察はただちに本件の起訴をとりさげるべきであります。

 
裁判官
 
バーガー検事、メイスン君、ちょっとこちらへ
 
(裁判長の前に二人が来る)
 
バーガー
 
ペリー、またやられたよ。裁判長、起訴を取り下げます。
 
(場面はペリー・メイスン弁護士事務所)

メイスン
 
ポール、からかさはよく証言してくれたもんだね。
 雀からいくらか貰ってたんだろう?

 
ポール
 
な〜に、雀の涙さ。
 
デラ
 
ペリー、今度は雀が弁護を依頼してきたわよ。
 
メイスン
 
おことわりしたんだろうね。
 
デラ
 
もちろんよ、そのかわり弁護士プレストンを紹介しておいたわ。

おしまい。

ペリー・メイスンをご存知ない方は、米国の法廷劇としてお楽しみください。
当時、ペリー・メイスンは娯楽色豊かで、もうひとつの弁護士プレストンはNHK教育テレビに相応しく
社会派ドラマでした。
というわけで、優秀なプレストン親子に弁護される雀さんも確実に無罪放免です。
こまかい配役の名前はうろおぼえでしたので、以下のHPを参考に致しました。
Perry Mason TV Series http://www.oz.net/~daveb/perry.htm
ノスタルジックワールド http://www.asahi-net.or.jp/~uy7k-ymst/index.html
 
                            藪野菜加太


御意見板より

ペリーの手伝いをしている私立探偵ポールはちょっとヤクザなタイプ。
デラは知的美人。
いつも検察官は逆転されて口をあんぐり。
裁判官は検察官の異議を最後のほうでは認めずにペリーの話を傾聴。

ペリーの声優は、佐藤英夫。七人の刑事でしたよね。

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とことこ@じぶんち さん 投稿日:2001年12月16日(日)
 
ペリー・メイスン、見ました。
じろっと見るんですよね。
舌の小ささを傷の小ささのように思わせる辣腕弁護士を
テレビみたいな迫力で楽しませていただきました。
リンクの「ペリー・メイスン、テレビシリーズ」
で聞こえてきた曲がなんとも懐かしかったです。

なんとなく慌ただしくなってきた年の暮れに
面白いプレゼントをありがとうございました。 
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青影拓哉 さん 投稿日:2001年12月16日(日) 
   
オチもみごとで、この童話シリーズ中の最高傑作だと思います。(ホメすぎ(笑))
どんなに良くても、カメラのせいだといえないところがつらい(笑)。

「夢みたいな話だね」
「夢じゃがな」
最近の漫才ですな(笑)。 
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tapura さん 投稿日:2001年12月16日(日) 22時29分
  
タイトルに舌きり雀ってあったのに、
話の筋が、えっと展開か?が想像できなくて、
カラカサが出てきた時にはびっくりしました。

ドラマの法廷モノ、好きです。
やりとりが、聞いてて快感。
今回の先生のペリー・メイスンも、なかなかなもんです。

テレビのペリー・メイスン、何回か見ました。衛星放送の再放送。
今、ハマッテいるのは、アリーMyラブ(NHK)です。
今週は、自分がサンタだと思い込んでいるために教職を解かれそうになる老先生の話でした。
勝ちました。ホロリとしました。 
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はゆこ@ さん 投稿日:2001年12月16日(日) 23時39分  

日曜の夜、見たいテレビもなかったので、ゆっくり楽しませてもらいました。
法廷の場面って張り詰めた緊張感があって面白いですよねー。

小さな綻びを鋭く突いて追求していくー
メイスンが証人を追い詰めて畳みかけていくとこ、よかったですよー。
「べろは折りたたんでおくように」・・・・むふふふ (嬉し泣き)

ご紹介の「ノスタルジックワールド」の懐かしのアメリカTVドラマ、
知ってるの全部開いて見ちゃいました。
「ナポレオン・ソロ」「ベン・ケーシー」「ララミー牧場」「ローハイド」、、、、
ううぅ、懐かし過ぎます。

うちは、来るWカップが為、2頭に遂に押しきられてケーブルTVに最近入りました。
で、「ザ・ガードマン」「奥さまは18才」「青春とはなんだ」こんなのばっかり見てます。
それで見終った後、自己嫌悪に陥ります、、、。

イカン、イカン。 もっと前を見よう。
でも、やぶ先生のペリー・メイスンは、とてもオモシロかったです!

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Catmint さん HomePage 投稿日:2001年12月17日(月) 10時08分
  
先生、夜中に何者かが私の首を絞めるんです。
強すぎず、緩すぎず、締め上げていくんです。
く、く、苦しい・・・、あ、あ(息もたえだえ)
雀だって生きてるんだいっ。
一寸の虫にも五分の魂だいっ。
ちなみに、ペリーメイスンは見たことありません。
ベン・ケーシーなら見たことあります。 
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YABU@ストレス解消済み さん 投稿日:2001年12月17日(月) 11時36分
 
ほうほう、ペリーメイスン、見たことある人多いですね。

とこさん、実際の弁護士は詭弁を弄すると思います。私の偏見でしょうが。

青さん、オチ、ほめられて恐縮です。雀の涙で終わりにならないところが良いでしょ。

TAPUさん、<からかさにびっくり>
我が家の住人はペリーメイスンのファンだったらしく、「のっぺらぼうはおかしい。西洋のお化けにしろ」
などと訳のわからないことを言いました。

はゆさん、折畳式と畳み込む、これはしゃれなのでしょうか? 
デラとペリーのやりとりはなんとなく好きでしたよ。

ミントさん、これじゃ、雀さんはかわいそうですよね。
でも、大丈夫。弁護士プレストンがついてますから。
なにしろ、社会正義にまっしぐらの弁護士ですから、雀さんは無罪放免間違いなし。
ベン・ケーシー見ましたか。それに対応するドラマがドクター・キルディア。これも社会派でしたよ。
ペリー・メイスンに対する弁護士プレストンと同じような感じでした。
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絵亭 さん 投稿日:2001年12月19日(水) 
 
舌きり雀、読みました。
「ペリーメイスン」見たことがないのですが、
こういう感じのドラマなんだろうな〜とイメージが湧きましたよ。
題材をこの辺りにもってきたのは、
なんとも先生らしいです。今後も期待してますよ!
では、失礼を申上げます。 
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March_Hare@りんご さん 投稿日:2001年12月19日(水)
 
読んできました。
ページを開いてから読み始めるまでに暫く間が空いてしまったため、
タイトルの「舌切り雀」を忘れて読みました。
おかげで、初めは何の裁判か判りませんでした。

ペリー・メイスンはミステリチャンネルで今でも見られます。
この間もやっていました。

ところで、彼は車椅子に座っていたのですか? 
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YABU@ストレス解消済み さん 投稿日:2001年12月19日(水)  

絵亭さま、お化けのアニメできたらお願いします。
・・・あつかましい?

March_Hareさん、
 車椅子に乗ってたのは、鬼刑事アイアンサイドでしょう。続編の。
 メイスンと同じレイモンド・バーが演じているやつ。
 ピストルで撃たれた後遺症という設定でしたっけ。
 本当に足が悪かったようで、
 年取ってから作られたメイスンはあんまり動かなかったですが
 (カメラアングルでカバーしていました)
 車椅子には乗っていなかったんじゃないかしらね。
 忘れましたけど。
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よいこ さん HomePage 投稿日:2001年12月20日(木) 。

ペリーメイスンは、見たことありません。
これはこれで痛快ですが、現実の裁判でも、弁護士の
腕で、判決が変わるとしたら、怖いなと思いました。 
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YABU@ストレス解消済み さん 投稿日:2001年12月20日(木)

裁判の判決は必ずしも真実ではありません。

例えば、当地では、裁判での冤罪をはらすべく生涯をかけて、
ついに真犯人を問い詰めて、再審にこぎつけて、ついに無罪を勝ち取って、
裁判官を謝らせた、昭和の岩窟王がいましたっけ。
それから、平家物語で、扇の的を射抜いた子孫が巻き込まれた冤罪事件とかね。