コロンボ
あ〜、ちょっと、いいですか〜。
あたし、コロンボ〜。ロス警察の。殺人課〜。
うさぎさん、おいでになりますか〜。
おや、あなたですか〜。目が赤いですね〜。
何か悲しいことでも、おありでしたか〜?
うちのカミサンも、目を赤くしましてね〜、いとこの仲良しの「ミミちゃ
ん」が死んでしまいましてね〜、そりゃあ大変でした。もらい泣きしまし
てねえ〜。えぇ? ミミズの「ミミちゃん」なんですがね〜。 |
うさぎ
あのぉ、どんな御用でしょうか?
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コロンボ
今朝方、この先の海岸にタヌキの死体があがりましてねえ。
どうも、事故らしいんですが〜、報告書を出さないと上司がうるさいもん
で〜。
あなた、タヌキと親しかったんでしょう〜?
どうして、タヌキが海なんかに行ったんでしょうね〜?
あなた〜、ごぞんじですか〜?
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うさぎ
えぇ、ちょっとした知り合いでした。
でも、親しくはありませんでしたよ。ですからよくわからないですが、
きっと泳ぎに行って、泳ぎながらタヌキ寝入りしているうちに、おぼれ
ちゃったんじゃないでしょうか。
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コロンボ
あ〜、気がつかなかったな〜。そうですか〜、タヌキ寝入りね〜。
あのタヌキは金槌だっていうはなしでしたがね〜。あれ〜、どこいったか
な〜、あー、すみません〜、ちょっと書くもの貸していただけませんか。
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うさぎ
これで、よろしければ。
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コロンボ
はいはい、結構ですとも。いえネェ〜、あたしゃ、忘れっぽいんでねぇ、
こうやってメモしとかないと・・・。あれ〜、あなた、爪の先に土がついてい
ますよ〜。 |
うさぎ
あぁ、これですか。
私、焼き物を作るのが商売なんです。ま、この業界では少しは名前は知ら
れていると思っていますがね。 |
コロンボ
あっ、うさぎさんって、あなたが、あの有名な、うさぎさんー!?
いっや〜、いえネェ、うちのカミサンがねぇ、あなたのファンでしてね〜
こないだもアリス社のマーク入りの茶碗を買ってきましたよ〜。そうそう
トランプ印の。いや〜、おどろきました。ちょっと、サインしていただけ
ますか〜? カミサンに見せたいんで。
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うさぎ
(少し迷惑そうに、少し気取って、コロンボのメモ帳にサインする)
じゃ、これでいいですか?これから州知事と会食の予定がありますので。
今度奥様とごゆっくりお話したいですねぇ。
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コロンボ
それ聞いたらうちのカミサン、も〜大喜びです。
じゃ、おじゃましました。
(ドアのところで振り向いて)
あ、いっけねぇ、肝心なこと聞くの忘れてました〜。ちょっとよござんす
かぁ、うさぎさんの工房の土、さっき見せていただきましたら、なんと、
タヌキの手と足の爪についていた土と同じなんですがね〜、あなた、何か
ご存知ですか〜?
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うさぎ
(もう、いかにも迷惑だ、という顔で)
それは、タヌキさんが、ここへ見学に来たときについたんでしょう。
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コロンボ
ところが、お尻にもくっついていました〜。あたしゃ〜、土でできた何か
に腰掛けていたんじゃないかとみてるんですがね〜。土の舟とかね〜。
そうそう、忘れるところでした〜。え〜と、どこだったかなぁ、ポケット
に入れといたはずなんですがね〜。
ああ、これこれ、この写真、見ていただけます〜? 毛がまばらですが、
タヌキの背中の写真です。 |
うさぎ
ほー、このやけどしたあとの背中の写真がどうかしましたか?
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コロンボ
あなた、これがやけどだと、よくお分かりですねえ。
ところで、ここだけの話、これがただのやけどじゃないんですよ。
ここの所、ねぇ、見えるでしょ〜? この赤い塊、何だと思います〜?
なんと〜唐辛子なんです。これ〜そこのテーブルの上の唐辛子と同じです
よねえ。
おや〜、あそこの神棚の上に、火打石がありますねえ。
ちょっと見せてくれませんか〜。
ほ〜、いい音ですねぇ〜。カチカチ山のお話みたいですね〜。
おや〜、そこに釣りざおもありますねえ。
タヌキの指に絡んでた釣り糸と同じかどうか、調べていいですか〜?
どうです? あなたが殺したんでしょう〜? |
うさぎ
(観念して、おだやかに)
あのタヌキは悪いやつでした。私のお得意様のお爺さんのご夫人を殺して
しまったんですよ。
・・・いつから、私だとおわかりになったんですか?
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コロンボ
あなたの顔を見たときからです。耳がピクピクしてましたからねえ。 |
うさぎ
(コロンボのコートのポケットのふくらみに目をやって)
ポケットの拳銃はしまってください。逃げたりはしませんから。 |
コロンボ
え? と〜んでもない。これぁ〜拳銃なんかじゃありませんよ〜。
いえねぇ、ここへ来る途中おなかすきましてね〜、そこのスーパーへ寄っ
たら、おいしそうな人参がありましたのでねえ、うさぎさんにプレゼント
と思って、買ってきたんですよ〜。召し上がります? |
(うさぎが人参を齧るところで)the end
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