黒柳
まあ、きょうはこぶとりじいさんに来ていただきました。本当に楽しみでございます。こぶとりといいましても昆布を海で採るお方ではないんですのよ。もちろん小太りでもございません。スマートでございます。
はじめまして。よくいらっしゃいました。
まあまあ、ホッペがつるつるで。まあー、こぶがついていたなんて、ぜーんぜんわかりませんです。皆さん、この方は、ほっぺに大きなこぶがくっついていたんですのよ。それが、こんなにつるつるで、よっぽどこぶをとるのがお上手でしたのね〜。 |
爺さん
えぇ、あの〜。
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黒柳
なんですか、とっても踊りがお上手だとか。花柳流ですね。
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爺さん
いぇ、あの、藤間流だそうです。
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黒柳
だそうですって、あなたが習ってたんでしょう?
え? 違うの。あら、あなた、こぶとりじいさんじゃないんですか?
あら、やだ。となりのじいさんでしたの。そういえば、こぶとりじいさんはもうとっくに亡くなってますものねえ。そうそう、今日は、『こぶとりじいさんを偲んで』というタイトルでしたっけ。偲ばれる人が出てきちゃおかしいですわねぇ。本当に。
(こぶとりじいさんの生前の踊りの映像を見ながら)
まぁ〜、おじょーずですこと! 手つきと腰つきがねえ。
この踊りでこぶをとってもらったんですねえ。
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爺さん
そうそう、えらく気に入られましてね。こぶを「ただ」でとってもらったんです。
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黒柳
それであなたも「ただ」でとって貰おうと、出かけたんですって?
そしたら、みなさん、なんとまあ驚くじゃございませんか。踊りが下手だっていうんで、余分なこぶをくっつけられちゃったんです。
ま〜、災難でございましたねえ。 |
爺さん
とって貰おうと思って行ったんですが、受付で間違ったらしくて、こぶのない方のほっぺにちがうこぶをくっつけられちゃったんです。
それで、ちがうちがう、こぶをとって欲しいって言ったんですけど、どうも、相手は赤い顔していて、かなり酔っ払ってましてね。なかには悪酔いして、青い顔してたりして、えぇ、たいへんでした。
それで、全然聞いてもらえなくって、とうとうくっつけられちゃったんです。
そのこぶが、前日とられた、こぶとり爺さんのこぶだったんです。 |
黒柳
でも、あなた、ほっぺた両方ともこぶがありませんが、どうされたんですか。
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爺さん
こぶとり爺さんが、あんなことになりましたからねえ。
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黒柳
そうでした。ばい菌が傷口から入っちゃって、お亡くなりになったということでしたわねえ。
(資料を見ながら)
そこはそうとう不潔だったらしいですわねえ?
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爺さん
その病院は営業停止処分を受けまして、トイレでも手を洗ったこと無いらしいですし、爪ものび放題のために、医師免許も取り上げられちゃったということで、私も恐くなりまして、別の病院へ行って、こぶをちゃんととって貰いました。ついでに、もとからあるこぶもとって貰いました。
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黒柳
あら、それはようございました。ほんと、ハンサムでございますわ。それに、そのお医者様はお上手でございますわね。傷跡が全然わかりませんもの。
でも、あなたは、こぶがある頃は、たくさん映画に出ておられましたでしょう?
主演映画も撮られましたよねえ。題名は、え〜と・・・ |
爺さん
『エースだじょ〜』
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黒柳
そうそう、あなたのきめ台詞、覚えてます、覚えてます。
『水鉄砲だじょ〜』って言って、悪者に水鉄砲引っ掛けちゃうんですよね。
相手が、『しぇー』なんて言って、逃げちゃうの。おもしろかったわ〜。ちび太なんていうやんちゃな子役も出てましたよねえ。こないだ、偶然おでん屋さんへ入ったら、あの子は、おでん屋さんのチェーン店の店長をしていました。自分でも食べちゃうので、もうからないなんて、おっしゃってましたけど。
・・・それにしても、こぶとり爺さんは気の毒でしたわねえ。 |
爺さん
それで、私もこぶとり爺さんの遺志をついで、踊りを習いはじめたんです。
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黒柳
そうそう、そうなんです。藤間流ですよね。
(資料を見ながら)
それで、そのお師匠さんとこのたびご結婚あそばすことに、まあ、みなさん、なってるんだそうです。
おめでとうございます。ご結婚のお相手は、
(資料を見ながら)
藤間、え〜、お醤油さんだそうです。この話も面白いんですが、お時間ですので、またこの次・・・。
え?お醤油じゃない?・・・みなさん(いきなりCMが入る)
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おそまつでした。 |