《中島みゆきの「かぜのなかのすばる・・・」の歌が流れる》
ナレーション(田口トモロヲ)
枯れ木に花を咲かせた男がいた。
周囲の冷笑を買いながらも己の信じる道をまっしぐらに歩いた男と
その仲間の物語である。
|
《満開の桜の下に司会者の国井・久保アナウンサーが立っている》
国井アナ
いや〜、きれいです。みごとな花でしょう。
この花は、信じられないでしょうが、実は枯れ木に咲いているんです。
久保アナ
本日は、数々の苦労を乗り越えて、枯れ木に花を咲かせる技術を開発した
ひとりの男と、彼を支えたプロジェクトチームの物語です。
|
《古いために雨が降ってるみたいに見える白黒のフィルム。
一人の男がポチと相談している。》
ナレーション
枯れ木に花を咲かせようとした男がいた。花坂時々伊、46歳。
世間の人からは「おおぼらふき」と馬鹿にされた。
協力はどの企業からも断られた。
資金不足に悩む花坂に、ポチは言った。
「資金は、まかせてください」
裏の畑に、ポチは走った。
前足で掘ると、ポチはほえた。
花坂は穴を覗き込んで、息をのんだ。
そこには大判・小判がたくさん埋まっていた。
|
《満開の桜の木の下》
国井アナ
おかげで研究を続けることができたのですが、意外な結論が待ち受けて
いました。その模様をご覧下さい。
|
《研究室で悩む花坂とポチの映像》
ナレーション
半年の研究の結果は、動物の死骸を肥料にした松の木が必要であることが
示された。
しかも最適な肥料は犬の死骸だった。
重苦しい空気が流れる中、ポチが言った。
「肥料は、まかせてください」
ふたたびポチは走った。
今度は隣の家の畑だった。
畑からは瓦や石ころが掘り出された。
ポチは殺された。
殺したのは隣家の井地和留であった。
花坂は死骸を貰い受けて土に埋めた。
その上に木の苗を植えた。松の苗であった。
|
《満開の桜の下》
久保アナ
では、ここでこの方に登場していただきましょう。
井地和留さんです。
《かなり高齢の男の人が出てくる。》
国井アナ
井地さんは枯れ木に花を咲かせた花坂さんの隣の家に住んでいた方です。
ポチが大判小判をザックザックザックザクと掘り出したときは
正直、どう思われました?
井地
エエ〜、モ〜、大変うらやましくて・・・。
久保アナ
その日は花坂家ではお祝いの宴会をしたそうですね。
井地
エ〜、私はお酒を一杯だけお流れを、へへへ、銘柄は「冬桜」、
エ〜、ポチはドッグフードを少々。
国井アナ
しかし、ポチを殺してしまうんですね。
井地
エエ、悪いやつと思ってましたが、実は良いやつでした・・・
気の毒なことをしました・・・(泣く)
ココホレワンワンと呼ばわる声が今でも耳に残っています。
|
《杵と臼で餅を製作している花坂の姿。それを覗き見る隣家の井地和留。》
ナレーション
ポチの墓に植えた苗木は数年で大木になった。
この大木にもち米を染み込ませる行程が残っていた。
「私にもやらせてください」
隣家の主が言った。
|
《満開の桜の下》
久保アナ
実は、犬の肥料で育てた松で、なおかつ、もち米の成分の染み込んでいる木
から灰を作らないといけないわけですね。
井地
そうなんです。それを花坂さんに進言しましても、やはり、ポチの忘れ形見
というわけで、なかなか燃やそうとしなかったんですね。
国井アナ
そこで、井地さんが、心を鬼にして燃やしたのですね。
|
《花坂が灰を撒くと、枯れ木に花が咲いていくシーンが映される》
ナレーション
井地和留が臼と杵を燃やした灰は、枯れ木に花を咲かせた。
花坂は「枯れ木に花を咲かせましょう」と大声で叫んだ。
ニュースは全世界に打電された。
ワシントンの市長から電報が届いた。
「サクラカレタ ハイオクレ タノム」
|
《中島みゆきの歌うエンディングテーマ「ヘッドライト・テールライト
旅はまだ終わらない」が流れる》
ナレーション
花坂は、井地に見守られて間もなくポチのあとを追った。
それから半世紀が経過した。
灰は今、さまざまに形を変えて我々の身の回りに使われている。
|