(古今亭志ん生、座布団に座る)
え〜、家来が呼びつけられまして、
「おそいね〜、ええ〜? 何してんだよ。・・・オマンマいただいてましたぁ?おまいは、そういうところがぐずなんだね、えぇ? もう、呼ばれたらすぐ来なくちゃいけませんよ、うん。第一、オマンマいただくってがらかい。
えぇ? そこのミーコの餌でも喰ってやがれ」
「え〜、御用はなんでしょ?」
「白雪姫、知ってるだろ? えぇ? うん・・・やっておしまい」
「え〜、どちらへおやりになるんで?」
「なにを言ってるんだよ、えぇ? なきものにしておしまいってんだよ」
「はぁ〜、え〜、なきものでござんすか、なきものねぇ・・・・・・それは、え〜、蛙かなんか・・・え〜、ゲコゲコなんてなくもの」
「おまいさんしっかりおしよ、えぇ? 頭の中に何が入ってるんだい? ん〜おからでも入ってるんだろ。・・・殺しておしまいって言ってるんだ!」
「だれが?」
「おまいが殺すに決まってるだろ、えぇ〜。森の奥で殺すんだよ。
・・・だれにも見られるんじゃないよ。見られたらそいつの目ん玉くりぬいておやり。あとで、フライパンで目玉焼きにしちゃうんだから。
・・・なにしてんだなぁ、ん〜ぐずぐずしてると噛み付くよ!」
「えぇ〜、ようがす。殺してきます」
「あぁ、早く行っといで。あ〜、それから、ごまかしちゃいけないよ、えぇ?
ごまかすと、その舌ひっこぬいて、網で焼いて、醤油かけて喰っちゃうから!
あ〜、それから、え〜、証拠に、白雪姫の心臓持っといで!
えぇ? わかったね。ぐずぐずしてやがると、ん〜その首ねっこ伸ばして・・・ろくろっ首にして」
「あ、あぁ〜・・・あ〜おどろいた。ろくろっ首にされたんじゃ、しょうがねえやなあ、えぇ〜? 行灯の油なんかなめてもうまかねえだろうしナァ」
家来はぁ、えぇ〜仕方なく、森の奥まで白雪姫を連れて行きましてな、
この、殺そうという段になりましてぇ〜、ん〜、ふぃっと顔を見るって〜と、
これがもう、美人なんですナ、うん。
で、もう・・・殺せなくなっちゃった。
えぇ〜? ん〜。美人は得ですな、ぅん。これがゴキブリだったひにゃぁ、もう大変で・・・、
「お〜い、なんだなんだ、ゴキブリじゃねえか! え〜? ん〜、草履でふんづぶしちゃえ」なんて、ゴキブリもいい災難で。
(ちょっと講談調で)で、家来は白雪姫を逃がしましたが、はたと困りました。
「心臓を持ってかなきゃな〜、えぇ? どうしよう?」
兎かなんかとっ捕まえて、心臓だけ取り出そうかとも考えましたが、この家来存外気のやさしい性質(たち)だと見えて、かわいそうでそれもできないでいると、いいあんばいに、この男の腕にノミが喰らいつきました。
血をすって、まるまるとしたところをひねりつぶそうとして、
「いや、まてよ、こいつを心臓だといってごまかしちゃえ」と思案がきまりました。
(もとの口調に戻って)「え〜、奥方様〜、もどってめえりました」
「えぇ? おそかったじゃないか? ん〜? で、どうなんだい? えぇ? 殺したんだろうね」
「え?・・・ん〜、だれを?」
「なんだい、何しに森に行ったんだよ! えぇ? 白雪姫だよ〜。しっかりしておくれよ、本当(ぅんとう)に。で、証拠の心臓はもってきたかえ」
「え〜、持ってめいりやした」
「ん〜なんだい、ちり紙なんか出してさ、えぇ? その中に入ってるのかい?
・・・あれあれ、真っ赤だよ。え? 血が入ってます? あたりめえだ〜な、血が入ってるから心臓なんだよ、え〜? これが、餡子でも入っててみな、饅頭なんだから。
・・・おいおい、なんだか動(いご)いてるよ。まだ生きてるんだよ、えぇ? ちゃんと殺してから持ってこなくちゃいけねぇじゃないか。えぇ〜? はやくひねりつぶしな」
「へい・・・え〜、つぶしました」
「あ、血が出たねぇ、やっぱり心臓だぁね。・・・だけど、白雪姫はずいぶん小さい心臓じゃないか」
「へぇ、え〜、ノミの心臓でござんすから」
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