名作どうわ選 |
2001/6/23 イソップ物語。「よくばりな犬」です。 寓話ですね。そこにどういう意味を見出すのか。 芥川龍之介は、どんな寓意を見たのでしょうか。 しかし、著者が本物の芥川である保証はありません。 |
よくばりな犬 芥川龍之介? |
これはある犬、――茶色いぶちで耳の半分垂れた犬の話である。 |
かの犬はかなり歳をとっているはずであるのだが、(なにしろ僕が子供の頃から |
同じような格好をして歩いているのだから)尻尾を振る姿は、一見したところは |
いかにも若々しい犬である。 |
この犬には「よくばり」という噂話がつきまとっている。にわかには信じられ |
ないので、関係者に聞くことにした。僕はこのときの話をかなり正確に写したつ |
もりである。 |
よもぎを採っていた老婆の物語 |
さようでございます。よもぎを採っていたのは、草もちにするためであるのは |
まちがいはございません。 |
場所でございますか? |
その川から少し離れていますが土手の近くでございましたから、見間違うこと |
はございません。 |
目でございますか? |
近くのものは見えませんが、遠くのものは良く見えるのでございます。何しろ |
老眼でございますから。 |
橋の向こうから茶色いぶち犬が渡ってくるのが見えました。橋と云っても、小 |
川に架かっている橋でございますから、丸太の上に土がかぶさっているだけの粗 |
末なものでございますよ。 |
あのぶち犬は日ごろからたいそうよくばりでございましてね、狂犬病の予防注 |
射をうってもらったのだそうですが、一度注射された後、また後ろに並んで二度 |
も知らん顔してうってもらったらしゅうございます。――その夜は死ぬ思いをし |
たそうでございますが。 |
いえ、見たわけではございません。他人のうわさでございますよ。 |
犬はそのあとどうしたのかと、お聞きでございますか? |
ちょうど橋の中ほどまできた時に川面をしばらく眺めておりました。――小首 |
をかしげて、思案顔でございました。そう、音響メーカーの看板みたいに。 |
そのあと、突然吼えたようでございます。――いえ、吼え声はよく聞こえない |
のでございますよ。最近は耳が遠くなりましてございますから。 |
とにかく、口にくわえていたうまそうな肉を川へ落としてしまったのは確かで |
ございます。 |
まあ、くやしそうな顔をいたしておりましたからねえ。 |
犬なんていうものは愚かなものでございますね。 |
川面に映った己が姿を、他の犬が肉をくわえていると思ったのでございます。 |
それで、吼えた拍子に、落としてしまったのでございますね。 |
えぇ? さようでございますか。では、ごめんくださいまし。 |
川底で見上げていた河童の物語 |
おれは空腹にさいなまされて、川底の丸い石によりかかって寝そべって、青い |
空を水中から眺めていた。その数日はキュウリを二本ばかり食っただけで、水ば |
かり飲んでいた。(水は川の中にふんだんにあるのだ) |
フナやドジョウがいるではないか? いや、おれは魚類を食らうとジンマシン |
がでる体質なのだ。だから獣の肉以外は口に入れない。 |
その日、橋の上から川底のおれをじっと見ている犬に気づいた。 |
その犬は、口にくわえていた肉片をおれの目の前に落としてくれたのだ。 |
おれのやせこけた体を気の毒に思ったに違いない。あんなやさしい犬には今ま |
でであったことがない。おれに肉をめぐんでくれたあと、ちょっとキマリ悪そう |
にはにかんで向こうへ行っちまった。そう、茶色の、耳が半分垂れ下がっている |
ぶちの犬だ。 |
耳が半分垂れ下がった茶色いぶち犬の物語 |
・・・う〜・・・わん。 |
僕はほうほうの態で駆け出した。カジリ取った肉はまた河童にやるのだろうか |
と考えた。ズボンの尻の穴をおさえている手が血でぬれるのを感じながら。 |
了。 |
絵亭さんの芥川です。 |
河童は尻こだまを抜くそうですが、私は河童も尻こだまも見たことないので本当か嘘か 尻ません。 芥川の真似なんて、大それたことをしたもんです。 藪野菜加太 |
「よくばりな犬」できました。 しかし、深遠な芸術は理解されないということでしょうか。 こんにちは! 絵亭 さん 2001年06月28日(木) 訂正に参りました tapura さん 2001年06月29日(金) |