あ〜ら、うさぎさん。しばらく〜。 お元気〜。

あたし？　あいかわらずよ〜。
ここんとこ海が大荒れでしょう。酔っ払っちゃってねえ。オエッ。

うさぎさんはどうなのよ。

あら、元気なの？　うそ、うそうそ〜。目が赤いわよ〜。
寝不足なんでしょ。

あなたね、ちょっとは健康に気づかいなさいよ、無茶しすぎよ〜。
こないだも寒いのに裸で海岸歩いたでしょ。
え？　好きで歩いてたんじゃないの？
サメにみぐるみはがれたの？　

うん、うん、へ〜え、そうなの？
まあ〜！！かわいそうに。（ハンカチで目をおさえる）

でも、大黒様はえらいわよね〜。
あんなに大きな袋かついでねえ〜。重くないのかしら？

あ〜あ、それであなたの毛は『アーデランチャー』なのねえ。
原料は『がまのほわた』なのね〜。
プッ、どうりでねえ〜。ちょっとみすぼらしいと思ったわ。

え？　なあによ。怒らなくたっていいじゃあない。
バカにしてるんじゃないわよ。同情してるのよ。同〜情！

尊敬しているのよ、うさぎさんのこと。
ほんと、ほんと、ほんとだってばあ。
耳だって長いし。
ほら、見て、見て。あたしなんかどこに耳があるんだかわからないでしょ？ね？　つるんつるん。ねえ？
自分でもわからないんだから。

耳は長くないけど、寿命はあなたより長いから、いいっか？

え？　競争するの？　なんで？なんで？
あたしのことをやっつけたいの？

ふ〜ん。まあ、それであなたの自尊心が満足するっていうんなら、喜んで負けてあげますわよ。

でも、大丈夫？　また、こないだみたいなことないんでしょう？
もう、うさぎさんは眠たがりなんだから！

ちょっと、待ってよう。どこまでなのよ〜。
向こうの山のふもとですって〜？　

しょうがないわねえ。
どうせ、また途中の木陰で眠っちゃうくせに。

筋肉が違うんだから、競争なんて無理なのよ。
うさぎは白い筋肉なんだから、スピードはあっても持続力はからきし駄目なのよねえ。
短距離競争にすれば絶対に勝てるのにねえ。

しょうがないか、頭が弱いんじゃあねえ。

もう、面倒だからお姉さんに電話しましょう。

もしもし。あ、もしもし、亀よ〜。
も〜、あたしよ。あ・た・し。亀さんよ〜。

また、うさ公と競争することになっちゃったのよ。
そうなのよ。もう、どうしようもないわ。

でね、どうせ、うさ公が着くのは明日の昼ぐらいなんだから、そのころ、ゴールにいてくれない？

大丈夫よ。わかりゃしないわよ。くたびれてるんだから。
姉さんの池からゴールまで、すぐ近くでしょ。

あたし？　これから映画の撮影があるのよ。

そうなのよ、『うみがめの産卵』っていうの。
あたしじゃなきゃだめだって、監督が言うの。自然に涙が流せる女優ってあまりいないらしいの。

いそがしくって、こまっちゃうわ。

じゃあ、おねがいね。
こんどの姉さんの誕生祝にはケーキプレゼントするからね。

じゃ、おねがいしま〜す。ごめんくださ〜い。

え？　うん、うん、そう。旦那によろしくね〜。
バイバ〜イ。

あ〜あ、物入りだわ〜。ケーキは安いけど、ローソクが高いのよね〜。
たしか、６千３百２十･･･え〜と３本だったかしらねえ。
あたしより、２百８歳上のはずだから。

あ、いやいや、これ内緒よ。
もう、女優の年齢はヒ・ミ・ツなんだから。

さ、急がなくっちゃ。撮影に遅刻しちゃうわ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい。