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笠碁 古典落語名作選・其の四(NHK・DVD)
金原亭馬生
(昭和569月「夜の指定席」)約30

馬生の落語は子供の頃は好きじゃなかったですね。
地味な感じがして、同じ志ん生の息子でも弟の志ん朝の方が大好きでした。
志ん朝は陽気ですし、噺が明るいですね。
私の父は「馬生の方が志ん生に似ている」と言ってましたが。

馬生は昭和57年に亡くなるのですが、その一年前に放映された「笠碁」です。

噺の眼目は「碁敵は憎さも憎し懐かしし」という川柳をいかに落語で見せるかということだと思います。子供の頃はこの噺がたいしておもしろいとは思いませんでした。
馬生ではなく柳家小さんや他の落語家が演った「笠碁」でしたが。

「笠碁」は大店の旦那さんと、やはり大きな商家の旦那さんが碁をやっていて、
「待った」「待てない」で喧嘩別れしてしまい、しかし・・・という噺です。

馬生のこの時の「笠碁」は素晴らしい出来です。
この噺は喧嘩別れするまでの前半と、その後の二人の様子と行動が描写される後半とにわかれます。
前半の喧嘩別れにいたる過程を、ていねいに、しかも可笑しく馬生は話します。
最後は「へぼ」「ばか」なんていう子供の喧嘩みたいなのですが、「子供の喧嘩みたい」というところが重要です。

で、その前半と後半部分のつなぎ目は
「いい年をした大店の旦那がこれっぱかりの(指で小さい丸をこしらえて)つまらないことでポーンと(両手を合わせて左右に分かれる動作)わかれちゃいますな。
碁敵は憎さも憎し懐かしい。雨がしとしとと三日も続くと・・・」

と語ります。
大店の旦那は、商売を番頭さんに任せて、訪ねてくるお得意さんと話をしているのが仕事なんだそうです。
話し相手がいると気がまぎれますが、毎日のように碁を打っていた二人が長い間我慢ができるわけが無い。
雨がしとしとと降る日が何日も続くと、お得意さんも来ない。
退屈ですな。
ここで、毎日のように出かけて行っていた方の旦那が、とうとう我慢しきれずに相手の店の前まで行くことにする。忘れてきた煙草入れを取りに行くということで。
ここでは夫婦の
会話で描かれます。良いです。

場面は一転、待っている方の旦那の方。
こちらも、いらいらしてます。

ここの描写は、旦那の言葉としぐさだけで、お店の様子から、家族の様子から、番頭が二人の仲を心配する様子まで、手に取るようにわかります。上手いです。可笑しいです。
で、お店の方へ向かって歩いてくる碁敵を見つけて・・・。

この後は「笠碁」を見てない人もいるかと思うので、後の展開は書きませんが、さらにこの旦那の一人芝居が続きます。
大いに笑わせてくれます。

その中で、この旦那が「我儘」な性格で、訪ねてくる旦那が「強情」であることと、子供の頃からの仲良しであることも想像できます。
とにかく、ここから終いまで笑いの連続となります。

終わった後、笑いながらも自分の目に涙がたまっているのに気づかされます。
ティッシュがいります。
涙腺が脆くなったからだろうって?
そうじゃないですよ。
一緒に見たまだ若い家族も見終わった後、ティッシュで鼻をかみながら「面白い」と言ってましたからね。

馬生の最後の方のアクションも素晴らしい。
これは映像でないとわかりません。CDでは味わえません。  
画面を見ることで「笠碁」の面白さも良くわかりました。なるほどね。

この「笠碁」収録のDVD「古典落語名作選・其の四」には、他に春風亭柳橋の「こんにゃく問答」、桂小南の「三十石」、橘家円蔵(前の月の家円鏡)の「寝床」が収録されています。

いずれも面白いですが、私の個人的評価は以下の通り。
☆五つが満点。★は☆の半分。

馬生の「笠碁」 ☆☆☆☆☆  一週間に一度は繰り返して見たいと思わせます。
小南の「三十石」☆☆☆☆  子供の頃結構好きな部類の噺家でした。
円蔵の「寝床」 ☆☆☆★ こういう「寝床」もまたいい。もちろん円生には・・・。
柳橋の「問答」 ☆☆☆★ 映像でないと面白さが伝わりません。声良いです。

DVDは今でも購入できます。其の四だけで定価は4700円ですが、ネットではもう少し安く手に入ると思います。