2002年6月4日、埼玉スタジアム午後6時キックオフ。
一次リーグHグループ、日本の初戦の相手は赤い悪魔ベルギー。
55,256人のサポーターは、ジェットコースターのようなゲームを味わうことになる。
後半11分15秒、コスタリカの主審が、戸田のプレーをファールと判定したことから、この試合は大きく揺れ動いた。
日本はベルギーのフリーキックを一旦ははね返したのだが、ビルモッツに鮮やかなオーバーヘッドのシュートを決められてしまった。
しかし、その2分後、突然、鈴木の執念のゴールが生まれた。
アナウンサーの裏返った声。
「はっきり言って、バックスとキーパーのミスですよ。でも、サッカーなんてミスの連続ですからね。日本を勢いづける素晴らしいゴールでした」
解説の岡田前W杯監督の試合後のコメントである。
しかし、私は、単なるミスではないと思う。
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日本の国歌。
さまざまなご意見もおありでしょうが、
試合開始前のセレモニーです。
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★日本を救ったゴール 02/8/29up
日本陣中央付近から戸田、稲本へとボールがつながれた。
日本が先制点を許してから、ボールはベルギー陣と日本陣を大きく移動していたが、シュートの予感はしなかった。
両チームのディフェンス陣が確実に守っていたからだ。
戸田、稲本とつながれたボールが、ベルギーのディフェンダーを背にした柳沢に縦にパスされた。
柳沢はダイレクトに右にはじいた。
中田英寿が走りこんできたからだ。
しかし、ボールは中田英についてきたベルギー選手にカットされてしまった。
ゴールへの遠さをまざまざと見せつけられたように、私は感じた。
後半13分31秒。そのカットされたボールはベルギー陣でコントロールされ、日本陣の左サイド深く開いていた最前線のベルヘイエンに向けて大きく蹴られた。
中盤を省略した、最終ラインからトップへのロングパスだった。
パスは正確にベルヘイエンの足元に届いた。
しかし、中田浩二が詰め寄る時間は充分にあった。
中田浩は体を寄せて、ベルヘイエンの体ごしに、前から戻ってきた小野に左足でボールを送った。
小野はボールを受け取り反転して前を向く。
二人のベルギー選手が離れて小野を見ていた。
小野は充分に余裕を持って、右足でロングパスを蹴った。
最前線で待つフォワードへ向けて。
ベルギーのロングパスよりやわらかく感じた。
小野の右足は、蹴った後左足と交差した。
体重が左へと移動したのだ。
ボールの先には鈴木が二人のベルギーディフェンダーに左右から挟まれていた。
鈴木より右サイドにいたベルギー選手は落下地点とゴールの間に体勢を持っていこうとした。
あるいは、キーパーが取れると判断したのかもしれない。
しかし、鈴木は、ベルギー選手と入れ替わるように、ボールの落下地点より右側へ走った。
そして、ボールは、鈴木の方角へバウンドした。
鈴木は目いっぱい体を伸ばし、つま先でボールを蹴った。
ボールは鈴木のつま先の分だけへこんで、方向をやや左に変え、キーパーの脇をすり抜けて、ゴールに飛び込んでいった。
小野は右足でカットするように蹴ったのだ。
だから、バウンドした後、キーパーの方角である前方へ大きく弾まず、やや右方向へずれながら弾んだのだろう。
鈴木やチームメートは、練習などで、小野の右足のロングフィードの性格を良く知っていたのにちがいない。
だから、鈴木は相手バックスの右方向へ体を入れたのだろう。
私は、小野のロングボールが空中にあるときは、ベルギーに跳ね返されるだろうと、思っていた。
バウンドしたときは、キーパーにキャッチされると、思っていた。
だから、ゴールが決まったとき、数秒間は、あっけにとられた、というところが正直な感想である。
ビデオで見直すと、小野と近くの味方選手の間にはベルギー選手がいて、パスのコースは見当たらない。
小野の右足のテクニックと広い視野があのゴールを生んだのだと、わかった。
1999年7月4日、シドニー五輪予選、日本は11対0で大勝した。
相手のフィリピンとはサッカーのレベルが違っていた。
小野のテクニックは、やみくもに滑ってくる相手選手には高級すぎた。
私は、テレビで見ていたのだが、怪我をする選手がでることを心配していたのを覚えている。
技術的に大差で劣るチームが、負けている状況で犯しがちな反則は、無意味で、乱暴なタックルである。
小野は、後方からのスライディングタックルを受け、左膝の靭帯を切断した。
小野は、オリンピックに出られなかった。
しかし、小野は大きく成長していた。
だから、W杯直前に虫垂炎に悩まされた悪コンディションも、跳ね返せたのかもしれない。
そして、鈴木のゴールがうまれた。
埼玉スタジアムは目を覚ました。
日本中のサポーターとともに。
ゴールは、なにがしかの予感をもって始まることが多い。
ベルギー戦、稲本の2点目も、あ、入るぞ!という雰囲気があり、シュートがネットを揺らしました。
涙が出そうになりました。
解説の岡田前監督の驚きとも喜びともつかない声が聞こえました。
ベルギーの2点は、2点とも、あ、危ない!!と思っているうちに入りました。
しかし、鈴木のゴールは何の予感もしませんでした。ベルギーの先制点から、私自身が立ち直れなかったからかもしれませんが、小野のうまいパスが見抜けていなかったからなんでしょう。
この、4点(5点だったかもしれない)の攻防は、私の血圧を上昇させ、翌日の某高等学校の内科検診の日程を伸ばさしめた、罪深い試合であったと言わざるをえません。
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