ドリブル

 
★柳沢のドリブル(対ベルギー戦)
02/07/14 up

柳沢は唇をかみしめて自陣に向かった。時計は後半19分をさしていた。

ホイッスルは鳴らなかった。

ゲームは、後半になって大きく動いた。
ビルモッツがオーバーヘッドで日本ゴールを揺るがし、鈴木がつま先で蹴りこみスコアは1対1のドローとなっていた。

後半18分、トルシエは小野と交代して三都主をピッチに入れた。

直後、戸田がファールをとられた。
自陣ペナルティーエリアから7メートルほど離れていた。

ベルギーのフリーキック。
6分ほど前のビルモッツの得点につながったフリーキックと似ている。

フォワードの柳沢は、自陣ペナルティエリアのわずか前、右サイドにいた。

ベルギー選手がふわっとしたボールをゴール前にあげる。
ヘディングされたボールは跳ね返り、柳沢の足元にコントロールされた。

前に大きなスペースがある。

柳沢は、ドリブルを開始した。

ハーフライン付近まで来たとき、鈴木についていた二人のベルギーのディフェンダーが、ついに柳沢に向かってきた。
まだ、パスをすると思っていたらしく、パスのコースを切るようなディフェンスだった。

置き去りにされた鈴木はオフサイドの位置にいる。

パスはできない。
柳沢は急にスピードを上げた。
ディフェンダーを抜き去る決心をしたのだと思う。

左足でボールをタッチすると見せかけて、右足でボールをすばやく前へ出し、
一瞬の間に二人のベルギー選手を置き去りにした。

中央からつめてきた三人目のバンデルヘーゲも抜いた。

背番号18をつけたこのベルギーの選手は、13と書かれたユニフォームの襟首に手を伸ばした。不吉なものを引き剥がすように。
それから右足を伸ばして、背後の外側から柳沢の足首を払った。

柳沢は大きく背中をそるようにしてペナルティエリアの中に倒れた。

コスタリカの主審はホイッスルを吹かなかった。

自陣ペナルティエリア付近から、ベルギーのペナルティエリアまでの70メートルのドリブル。

後半19分、つむじ風のような疾走だった。

3分後、稲本が勝ち越し点を入れるが、アシストは、いつのまにか左サイドに回っていた柳沢だった。

今度もファールを受けながらのアシストであった。

地上波のアナウンサーは、この柳沢のドリブルのとき、一言も、柳沢のやの字も言いませんでした。
倒されたときも、ファールをとらなかったと言ったのみでした。
後で、ビデオで見直したら、国際映像ですので副音声の外国のアナウンサーはヤナギサワって言ってました。
しばらくして、国際映像ですから、この最後の部分を何回かビデオで別角度で流しました。解説の井原は「ファールでしょう!」って、言ってましたが、その前のドリブルについては触れられませんでした。
マラドーナが5人くらい抜いたときは
マラドーナ、まらどーな、
まらど〜な〜
なんてアナウンサーが叫んでましたが
今回は
柳沢、柳沢、やなぎさわ、
やなぎさわ、ヤナギサワ
ヤナギサワ〜、倒された〜!
エ〜!ノ〜ホイッスル〜!
というぐあいにやってもらいたかったです。
 
★ロナウジーニョのドリブル(対イングランド戦)


それはベッカムの左足甲の悲鳴で始まった。

ベスト4を決める試合も、前半ロスタイムになっていた。

オーエンのゴールでリードされていたブラジルは何とかイングランドに迫ろうと試みるのだが、この時間帯、自陣に釘付けになっていた。

ブラジルの左タッチライン際にボールが流れた。
ベッカムがすばやくボールを支配しようと走りよった。
ブラジルの選手も二人、斜め後ろと前からスライディングした。

ベッカムは飛び跳ねてピッチの外に逃れた。

牛若丸のように高くとんだ。

接触プレイに耐えられないほどの足になっていたのだ。

折り返されたボールはロナウジーニョが支配する。

ハーフライン手前から若いセレソンの華麗なショーが始まった。

イングランドの二人のディフェンダーが追いすがるが、大またにドリブルするロナウジーニョのスピードはますます加速する。

ボールまたぎのフェイントを一度入れる。
並走するイギリス選手がよろめく。

イングランドのペナルティエリアが近づく。

さらに二人のイングランドディフェンスが行く手をはばもうと走りよる。

ロナウジーニョの右足の甲の外側から、右を走るリバウドにボールが送られた。
グランダーの、シュートするにはちょうど良い強さのボールだった。

左足のサイドキックはゴール隅に低くすばやく蹴りこまれた。

ロスタイムの同点シュートは、目を見張るようなロナウジーニョのドリブルによってもたらされた。

ベッカムの左足甲の痛みは、セレソンの復活を促したのだ。
シュートを決めたリバウドが青い第二のユニフォームを脱いでふりまわしたときに、私はそれを感じた。
カナリヤ色のアンダーを着ていたからだ。

ロナウドの髪型といい、帰りのちょんまげといい、ロナウジーニョの太鼓といい、決勝トーナメント中というのに、さんまとおかしなやりとりを平気でする、ブラジルの楽しいサッカーには驚かされます。
 
カメルーンのおおらかさにも驚かされましたがね。
デンマークも試合以外でも、キャンプ地との交流などなかなか良い話題を提供していたようですね。